乗鞍岳は、まだ雪を抱いている。
いや、一年中溶けることのない雪を抱いている。
溶けてはならない。
溶けてしまっては生きていけない者が、この地球上にはいっぱいいるのだ。
氷河期が終わって、地球の氷が真北と真南に退いたとき、奇跡的に日本列島のアルプスの尾根に取り残されたライチョウ。
彼らが生きることができる、地球上の最南端が信州の山々なのだ。
数十年前には、富士山にも生息していた彼らは、もうそこにはいない。富士山には広い尾根がない。信州の山々にはそれがある。それがあるからこそ、ライチョウは悠久の時を信州に生きてこられた。そこに住む人類は、その山々を自慢するのではなく、きちんと守らなくてはならない。
カナダなどの北国に住むライチョウは、人間を畏れて近づくことが出来ない。
しかし、信州のライチョウは、人を受け入れる。
それは、欧米人がライチョウを狩りの対象にした過去があり、対して日本人は山岳信仰の中で見たライチョウを、神の化身と崇めたから。
急速に住家を奪われゆくライチョウの姿は、
同じく、自らの手で急速に住家を壊している人類の姿を表しているのだろう。
ライチョウよ
いま、初めて
会いにゆきます。