SOUND（音色）
『蝉の音色は悲しくも、
また、喜ばしくも聞こえる。
其処に慰めと励(はげ)ましがある…』
強い日差しが肌をさす…
緑に染まった木々の茂みから、
｢みーん、みーん｣と勢いよく
蝉(せみ)の音が聞こえてくる。
余命3日から7日の
限られた命を惜しみなく、
我々に分かち合ってくれている。
去年の今頃は
蝉の音が鳴り響く中、
母は83年の生涯を
病院の一室で終えた。
「死の存在がなければ
ひとりの詩人も
生まれなかったであろう…」
とトーマス・マンは語っている。
方丈記の中で
鴨長明(かものちょうめい)は、
「秋は蜩(ひぐらし)の声、
耳に満ちてり、
空蝉(うつせみ)の世を
悲しむほど聞こゆ…」
と謳っている。
今年も鳴り響く蝉の音を聞きながら、
何故か命の儚さを
感じさせられてしまうのである。
然れど蝉の音は、
懐(なつ)かしい昔の想い出を、
走馬灯の様に浮かび上がらせてくれる。
そんな想い出の中の蝉たちは、
全て死に絶えているはずなのに、
我が心の中には今も、
活き活きとその力強い音色を
響かせてくれている。
その合唱(がっしょう)は、
今年も受け継(つ)がれている。
「空の空、すべては空である。
人には生まれる時があり、
また、死ぬ時がある…」
と雅歌書(がかしょ)の著者は
語っている。
親しくしている友のひとりが、
先週から病院に入院している。
病状は思わしくない…と言いながら、
元気な姿で俺に接してくれている。
外で勢いよく鳴いている蝉の音が、
何故か俺には
淋しく聞こえてくるのである。
人生は必死に生きるしかない。
｢必死｣とは、
必ず死ぬことを覚悟して
生きることを意味する。
魂のロッカーは、
「わたしはよみがえりであり、
いのちです。
私を信じる者は死んでも生きます。
また、生きていて私を信じる者は
決して死ぬことはありません…」
と語っている。
体は朽ち果てても魂は永遠なのだ。
人は時間と空間に
閉じ込められているが、
魂だけは時間と空間を
越えられるのである。
この世が全てではなく、
あの世がある。
それを人は極楽と呼び、
ある者は天国と名づける。
永久のいのちと言えども、
凡人(ぼんじん)な我々には、
中々ぴんとはこない。
JESUSは
「天国はあなたの心の中にある…」
と語っている。
それは、
死んだのちに向かう場所ではなく、
今、生きているあなたの
心の只中に実感できるために
訪れてくれるのである。
台風の目の様に、
どんなに人生が辛く、
また、酷くあっても、
胸中には言葉には現せない安堵感を
抱いて生きて行けると言うのである。
そう思うと蝉の音が、
喜びの賛美を響かせてくれている様に
聞こえなくもない。
今日という日があなたにとって、
絶望の只中にあっても、
希望を見出せます様に…
『蝉のいのちは短くても、
その音色は今も我が心に
絶え間なく響く…』
アーサー・ホーランド
2016.8.11
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