サヨナラ、リョウ君。
リョウ君がウチの道場に来たのは、もう4年前。当時、小学1年生とは思えないほど小さな身体に、伏し目がちな眼差し。基本も型も、なかなか上達しませんでした。でもいつの頃からか、空手のウォーミングアップでやる相撲は、一番に僕に掴みかかってくるようになりました。投げ飛ばされても転ばされて泣いても、すぐ立ち上がってまた組みついてきます。ケラケラ笑ってすぐ飛びかかって来ます。初めは皆がやる事に見向きもせず、いつも一人ぼっちでした。でも、知らないうちに「リョウ君、リョウ君!」「こっちおいでよ!」と、皆が彼の存在を常に気にするほど人気者になっていました。
そのリョウ君、引っ越しという子供にとっては如何ともしがたい理由で道場を離れることになりました。最後のクラス、リョウ君はいつも通りケラケラ笑いながら、一生懸命相撲を取りました。いや、勿論空手もやりましたが。いよいよ最後、終わりの礼の後コッソリと僕のところに来て「先生、ありがとうございまし…」そこまで言うか言わないうちに、ポロポロと涙を流し始め、その涙はどんどん大粒になって最後はしゃくりあげるような大泣き。いつの間にか、彼の周りには他の少年たちが取り囲んでいます。「リョウ君、泣くなよ!」「また来いよ!」「元気でな!」沢山の声援に送られて、最後はケラケラといつも通りの笑顔で最後の「オス!」、道場を後にしました。
リョウ君のこれからの人生に、僕の教えた空手が生かされるかどうかはわかりません。そうなればとても嬉しいですが。
でも、彼が残して行ってくれた爽やかな感動は僕の宝物になる事は間違いありません。
サヨナラ、リョウ君。君ならどんなつらい事でもケラケラ笑って乗り越えられるでしょう。
先生は、ずっとここにいます。いつでも遊びに来て下さい。日々成長していくであろう姿を、たまに見せてください。