自由な風。
モハマドさんはイランから日本に来たばかり。
今日は初めての練習。
ストップって英語、世界中どこでも通じると思ってた。
止め、そんな日本語が分かるとは思わなかったけど、やっぱり通じなかった。
「じゃ、パンチから行ってみよう」って日本語や英語で言って通じず
身振り手振りで必死に伝える努力をする。
でも彼は、
いきなりズバンとキックする。
隣の生徒はクスクスと笑い、俺は目の玉が真ん丸くなって呆気にとられる。
それでも彼は何も無かったように、
真顔でズドン、ズドンと重そうなキックを蹴り続ける。
もちろんインターバルなんか関係無い。
挙句、サンドバッグにタックルまでかまし始めたモハマドさん。
約30分、まるで僕なんかいないかのように自由にサンドバッグを
殴って、蹴って、たまにタックル。
突然、
フィニッシュ!って叫ぶモハマドさん。
ペコリと腰を折り曲げて、
汗も拭かずに立ち去るモハマドさん。
そこは英語なんだって、彼の後姿を見守りながらそう思った。
彼の過ぎ去った後に、
自由の風が吹いていた。