ベラルーシ紀行最終回
どこから聞きつけたかザビットの携帯に、ベラルーシのド田舎から
俺を見てくれ、と連絡が入った。
よくある売り込みだけど、
そいつは寝ずに8時間も車をブッ飛ばして、今日の夕方にミンスクに着くらしい。
その日はみんなでサウナに行こうって約束していたから、「頼むよ」ってアラシもすまなさそうに目をシバタカせて小声で言った。
もちろん僕はそんなガッツのある人間は大好きだ。
アラシより更に小声で「サウナはドウスルぅ」って呟くキャリーを無視して、僕は彼を待つ。
約束の時間より2時間遅れて彼が着いた。
「俺はK-1MAXで優勝する」って言ってた。
正直な話、練習だけでは分からない。でも出たいって気持ちは伝わった。
ここベラルーシでは世界に出るチャンスはほとんど無い、らしい。
今回の僕の仕事は、そのチャンスの種を蒔くこと。
僕に会うために、何百キロも一人で運転してきた彼に一粒。
前日に無事契約を済ませて、
おそらくは海外支部という形でスタートするはずの、新しいジムに一粒。
少しでも彼らの希望の種が育つと良いな、と思った。
最終日、僕は一人で街に出かけた。
いつも人気が無いなぁ、と思っていたら
いるじゃない。
ちゃんと地下街にはゴッソリと人が集っていた。
ちょっと安心して僕は買い物をする。
ザビットに聞くと、ベラルーシの一番のお土産は藁人形って言う。
なんだそれ。
アラシに聞くと、機関銃と言った。
そんなもん、持って帰れるか。
ホテルのコンシェルジュはガラスのコップだと言う。
いゃあ、持って帰るのが面倒だ。
結局、スーパーマーケットでチーズだとかワインだとかを幾つか買ってお土産にすることにした。
「また半年後に会おう」
空港まで見送ってくれたザビットとアラシはそう言った。
その時期は夏らしく、彼らは世界一過ごしやすいと自慢げに話す。
まぁ避暑に来るわけじゃなく、べラルーシと日本の親善に役立てようという試合の企画。
実現を約束して、僕らはチェックインした。
何故かカウンターのオネーサンは、成田まで荷物を預かってくれると豪語した。
もし届かなかったら、ちょっとだけ寂しいなって思って
チーズとワインはそのまま預けて、密かに買った藁人形だけは機内に持ち込んだ。
15:00にミンスクを出発して、
15:15にヘルシンキに到着。
もちろん1時間の時差があるからだけど、
翼の向こうに、いつまでも沈まない緯度の高いフィンランドの夕日。
あっちにいるときは早く帰りたいな、って思ったけど
もう、また行きたいなって気持ちなっていることに気がついた。
きっと地平線にい沿って移動する夕焼けが
そんな気持ちにさせたんだろうな。