振り返ればヤツがいた。
午前中のラグビーで身体はクタクタだったけど、
京葉道から館山道に入る頃には、もう釣れる気しかしなかった。
高速を降りて大きなスーパーで小さめのイカを買う。
海岸通に出ると、横に乗る次男は練習の疲れからかグッタリとシートに身体を横たえていた。
でも、GWを過ぎた静かだけど目の前一杯に広がる海にテンションは上がる。
今日こそヤツを仕留める、そんな決意は更に強く固まった。
洲崎灯台近くの港に着いたのは、日もかたむき始めた5時過ぎ。
残り時間を考えると、パックを破るのももどかしくイカを頭からねじり取って針につける。
防波堤の縁にそっと沈めると、すぐにコツコツって明らかに生物的な反応。
十分に間を取って思いっきり竿を煽る。
全くの無反応に、根掛りかなって思った瞬間
ズズッと糸が横に走り始めた。
ジージーとリールから糸が出て行く。
慌ててドラグを緩めて糸を送り出した。
途端に糸は緊張を失って、ヤツは自由な海に帰って行く。
合わせは、ヤツの鋭い歯に糸がかからない絶妙なタイミングが必要だ。
でも、間違いなくヤツはいる。
テンションはMAX。
と、隣で釣る次男が「パパ。来た!来た!」
次男の竿は満月のように丸くしなっている。
5分の格闘の末、もうすぐ夕闇を迎える青黒い海の中にとぐろを巻いた場違いな色したヤツが上がってきた。
とぐろってこういう事を言うんだ、そんな事を考えながら恐るおそる網ですくう。
ヤツは防波堤の上に身体を横たえた。
針を外そうとするとシャーって鋭い歯を向けて威嚇する。
その後、俺と次男で3匹をあげた。
遠く見える富士山の横に
真っ赤な夕日が沈んでいった。
今日は勝ったな。
そう次男に目を向けると、彼はコックリとうなづく。
肩に食い込むアイスボックスに喜びを感じながら帰路についた。