戦士
イスタンブールでのトランジットは五時間。
寝不足の僕は、その辺りにあった椅子に足を組んで手を枕にして寝転んだ。
バタバタと慌ただしく出発したのがずいぶんと遠くに思える。
ふと気付くと強烈な朝日が大きな窓から射し込んでいて、いつのまにか周りにはたくさんの人が何処かへ行く飛行機を待っていた。
寝入ってしまった僕は慌てて携帯の時計を確認する。
まだ出発までには時間があったけど
、
テヘランへ向かう飛行機のゲートがなかなか見つからなくて少し焦った。
ようやく見つけたゲートの待合室の、残り少ない椅子に腰掛けて人心地つく。
室内とはいえ暖房がかなり効いていて、春の始まりだった日本の服装では汗をかくくらい暑かった。
僕は厚手のジャンパーを脱いでTシャツ一枚になる。
ふと、待合室の中で全く質の異なる二人組の男性を見つけた。
その人たちは、ピシリとネクタイをしてスーツを着こんでいた。
この暑いのに上着も着たままで、スーツのズボンは、これまたピシリとアイロンの効いたスジが入っていた。
これじゃ寝転ぶことだってできなさそうだと、どうでも良いことを思う。
僕は寝癖のついた髪の毛を、少しだけ手櫛でとかして話しかける。
その人たちは、思った通り日本人でビジネスでイランへ向かうと言う。
しかも、一週間ほどイランで仕事をした後はアゼルバイジャンへと向かうらしい。
商社の営業で中東を回っているのだと。
僕は、馬鹿馬鹿しい質問で気を悪くしないでほしいと断ってから、
なぜスーツ何ですか、と質問をした。
これは僕たちの戦闘服なんですよ。
髪の毛を、彼が着ているワイシャツと同じくらいキッチリと固めた方の人が控えめに応えてくれた。
もう一人の、多分僕よりは十歳は若い方の人は、少し恥ずかしそうに笑った。
僕は、えらくカッコいいなって思った。
ふと、
ズリ下がった自分のズボンが、ひどくだらしなく思えて、そっともとにもどす。
頑張って下さい。
声には出せなかったけど、飛行機に乗るためにゲートを通過する二人の戦士の後ろ姿に、心からそう思った。