レフェリーというお仕事。
パシーンっと乾いた音が会場中に鳴り響いた。
抜群のタイミングで放たれた天才高校生石井選手の肘が、現役日本チャンピオン矢島選手のアゴにヒット。
僕も含めた会場のほとんどの人が、その芸術的な石井選手の攻撃と、
それでもなお、倒れることのない矢島選手の不屈の精神に魅了されていた。
たった一人、リングの中央に立って試合を裁いていたレフェリーを除いて。
その試合は、現役日本チャンピオンと天才高校生の対戦と言う触れ込みで、
お互いに負けられない、意地でも倒れることが出来ない一戦。
「音がね、気になったんだよ」
何故それに気がついたのかという僕の質問への、その試合を担当した先輩でもあるレフェリーの答え。
もちろん、選手は意識のある限り闘い続ける。足が折れようと、手がもげようとも。
セコンドも、負けられない一戦で選手の小さな異変に気がつかない。
会場中が、次のラウンドの更なる激しい闘いに期待を膨らませていた。
小さな異変を見逃さなかったレフェリーの要請で、ドクターは選手をチェックする。
即座に、アゴの骨が折れている可能性が大きいと言うことで試合のストップを示唆した。
レフェリーは試合を止める権限を持っている。
だからこそ、
試合中はもちろんのこと、インターバルの最中であっても選手の状況を常に把握していなければいけない。
どちらの選手にも偏らず、五感を研ぎ澄まして、命をかけてリングに上がっている選手を守る。
改めて、
自分自身の襟を正さねば。
そして、
当たり前ではあるのだけれど、あまり日の目を見ることのないレフェリーのファインプレーを、僕は賞賛したい。
さすが尊敬する先輩である。
飲んでる以外は(笑)