お父さんと眼鏡
飛行機の中で小さな読書灯を点けて本を読む。
ふと、
焦点の合わない活字がとても読み辛いことに気がついて、カバンの中から眼鏡を取り出した。
もちろん老眼鏡である。
数年前に始まり、暗かったり疲れていたりすると
これ無しでは本が読めないほど、俺の老眼は進んでいる。
未だにかける動作がぎこちなかったりもするのだが、
こんなときに何時も思い出す。
ずいぶん昔、とは言ってももう俺も高校生くらいの話。
夜中にたまたまリビングをのぞいたら、
親父が、なにか難しそうな顔をして書類を読んでいた。
疲れた目を押さえると、眼鏡を取り出してそれをかける。
それが老眼鏡であることに気が付いて、俺は少しばかりショックを受けた。
もう中学生位の頃には、いっぱしに反抗期を迎え、
事あるごとに親父とケンカになった。
俺に似て、
いや、俺が似たんだろうけど身体の大きかった親父はケンカも強かった。
それが高校に入ると、背の高さも体重も、
その前から始めていた空手のおかけで俺の戦闘能力は親父を凌駕していた。
何時だったか、
それまで負け続けていた俺が勝ってしまったことがある。
それ以来、親父が口うるさく俺に物事を言うことが無くなった。
なんとなく、背中を丸めて老眼鏡をかける親父の弱々しい姿が
自分の責任のような気がして、申し訳ない気持ちになったことを今でも思い出す。
いつのまにか、
あの頃の親父の年齢を通り越した。
俺が老眼鏡をかける姿に、子供たちは何を想うのだろうか。
いつかチャンスがあったら聞いてみたい。