遥かなるカルガリー その3
飛行機は定刻に日本を離れた。
機内は、これからカナダで楽しいことがたくさんあるに違いないと期待に胸を膨らませた老若男女で満席だった。
たった一人、これから殴り合いに行かねばならぬ、ちょっとだけブルーのエビちゃんを除いて(笑)
何となく浮わついた雰囲気の中、これぞアメリカ映画って単純明快なストーリーのSFを一本。
なんとも後味の良くない哀しい終わり方のスパイ映画を更に一本。
そして、絶対に行きの飛行機で読もうと思った文庫本を取り出した。
猫部屋と化している書斎。
ストレスの溜まったチビネコが三日に一度ほど大騒ぎする。
いつも一通り暴れると落ち着くので、鍵を閉めてほったらかしにしておくのだが、
出張前日、その猫が本棚から落としたのであろう文庫本が一冊、ポツンと床の上に落ちていた。
その本はカバーも無くなったむき出しの沢木耕太郎の短篇集で、
何となく読んでもらいたそうな意思を感じて、着替えの詰まったバッグの中にそれを放り込んだ。
その短篇の中にあった、長い旅をしてきた沢木耕太郎が旅の終わりを決意する瞬間。
夢中で読んだ深夜特急の最後。
ずいぶんと昔に読んだはずなんだけど、
覚えていない。
あぁ、
もしかしたら俺もこんな風に大好きな仕事の最後を迎えるのかな、
なんて、
何時までも浮かれた雰囲気の機内で、しんみりとそう思ったりした。
後、数時間でバンクーバーに到着する。
国内線の乗り換えでも確認するとしよう。
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