上海にて
僕は恩送りというと言葉が大好きだ。巡り巡って戻ってくるだろうという、浅慮ではあるのだが(笑)
何日か続いた自発的な寝不足で関西国際空港から上海へのフライトはほぼ熟睡だった。
おかげで入国審査を済ませて国内線へと乗り換えて長沙へと向かわねばならないのだが、眠気は一向に去らない。
僕はたったひとつの日本から持ってきた大きなリックを抱え込んでベンチで寝ることにした。
なにせ長沙行きの飛行機の出発は五時間後。いつの間にかリックを枕にベンチで横になっていた。
随分と寝た気がしたけど、携帯で時間を確認するとまだ一時間しか経っていない。
とりあえず飯でも、と何度か来たことのある到着ゲートと出発ゲートの中間階にある中華料理屋さんに入る。
とても美味しかったと記憶にある海老の入ったお粥を注文した。ここはお店独自のWi-Fiが飛んでるのが良い。
早速繋いでメールやらSNSのチェック。中に今回の仕事をアレンジしてくれた社長から、国内の移動はどうするのか?
と言った質問が合ったが、意味がよく判らずにそのままにしておいた。
さぁ、国内線とは言え中国である。
何が起こるかわからないので、チェックインカウンターだけでも早めに確認しておこうと席を立ち、国内線フロアへと向かった。
まぁ、元々そんなに冴えてるわけでもない頭が、まだ吹っ切れてない眠気で上手く回ってないんだろう、
そう思って何度も確認するけど、僕の乗るはずの飛行機はフライトインフォメーションの何処にも無い。
そんなことは無いだろうと、今度は自動チェックイン機で調べる。
ここ二日間あなたの予約はありません、と冷酷な返答。
それでは、と航空会社のカウンターで調べて貰うことに。
何故か頭に鹿の角を着けたお姉さんが、僕のパスポートを確認する。
顔をあげたお姉さんは、少し気の毒そうな顔で、これは別の空港から出る飛行機です、と教えてくれた。
その冷たい返事が、頭の上のゆらゆらと揺れる鹿の角とあまりにミスマッチで、思わず笑いが込み上げてきた事が唯一の救いだった。
なんだよ別の空港って。
とりあえずその空港の名前とシャトルバスの乗り場を中国語で書いてくれと、相変わらず鹿の角をゆらゆらさせてるお姉さんにお願いした。
お姉さんは、荷物を預けるときに貼るシールの一部を引きちぎって、可愛らしい文字でその空港とシャトルバスのナンバーを書いてくれた。
ありがとう。と、数少ない知っている中国語で言うと、やっぱり鹿の角をゆらゆらと揺らしながら笑顔で応えてくれた。
お姉さんの書いてくれたメモのおかげで、すぐにシャトルバスはみつかりその二階建てのバスの景色がよく見えそうな席に座る。
料金を回収しに来た、今度は愛想の無さそうなお姉さんにメモを見せると、つまらなそうな顔で頷いてくれた。
安心した僕は、バッグを抱え込んで目を閉じる。
ふと、今日がクリスマスであることに気がついた。
あぁ、あの鹿の角はプレゼントを運ぶ鹿で、親切にしてもらったことがプレゼントなんだなぁ、と妙に納得してしまった。
いつの間にか寝込んでしまった僕は、肩を叩かれて目を覚ます。
不覚にも何処にいるのかわからないくらい深く寝てしまった。
見覚えのない景色に一瞬狼狽したが、見覚えのあるつまらなそうな顔のお姉さんがここで降りろ、と言っているのはわかった。
慌てて、抱え込んだリックを背負うと小さな出口への階段を降りる。
あ、姉さんにお礼を言うのを忘れた。
振り替えってこちらの言葉でお礼を言う。
愛想の無い姉さんは、なんとなくこのクタビレたおっさんを哀れに思ったのだろう。
作り物のような笑顔で応えてくれた。
うーん、このシーンは何処かで見たことがある(笑)
そんなことを思いながら、今度はしっかりと確認できたフライトインフォメーションのボードに表示されたチェックインカウンターへと向かう。
カウンターでは、やっぱり鹿の角を揺らしながらお姉さんが対応してくれる。
今度は驚くほどスムーズに進んだ。手続きを済ませて、後30分ほどで出発する飛行機のゲートに向かう。
あ、思い出した。
関西国際空港へと向かう電車の中の出来事。
そうか、これか。
本音を言えば、もう少し大きくなって戻って来て欲しかったけど、なんと言っても素敵な旅の始まりである。
なんとなく、清々しい気持ちで長沙へ向かう飛行機へと乗り込んだ。
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