某有名ブラック企業に就職して新人研修合宿に行った話15
全員(脱走?)ヒソヒソ
全員(脱走だって……)ヒソヒソ
E班リーダー「朝起こしに行ったらこれが置いてあって……」
E班のリーダーの女の子が教官に
一枚の紙切れを渡します。
E班「もう研修に耐える自信がないから、一人で帰るって……」
ボク(おいおい、マジかよ……)
脱走した子もボクらと同じように
班の何人かのメンバーと同室だったはずです。
おそらく同室の皆が寝静まった夜中、
そろりそろりと荷物をまとめて
この合宿所をあとにしたのでしょう。
ボク(あれ? そういえば合宿所ってバスで来たよな?)
この淡路島には橋を越えるまで
駅もないはずです。
え、つまり……
歩いて島を越えたの?!
ボクは想像して愕然としました。
真夜中、人もいないような海岸沿いや
いくつかの山道を、大荷物を抱えて
ただ一人歩く脱走者の姿を。
当然会社も退社することになるでしょう。
ボク(そこまでしてでも、
この合宿に残りたくなかったのか……)
その時点で脱走しなかったこの研修室にいる
ボクら数十名はすでに感覚がマヒし始めていたのかもしれません。
教官「……わかった。とりあえず、お前らE班も席に着け」
教官は置手紙をポケットに突っ込むと、
ボクらに向き直りました。
教官「よし、では本日も研修を始めるぞ
オッス!」
全員「オ”ッ”ス”!”」←かすれ声
ボク(みんな声かすれてんなー……
まあ、昨日のアレのあとじゃ、しょうがないけど)
教官「声が小さい。オッス!」←マジか
全員「オ”ッ”ス”!”」
もうみんなヤケクソでした。
教官「よし、昨日の発声で声が出ない
とか思ってるやつもいるかも知れないが、
俺は昨日『大声を出せ』とは一言も言ってないからな」
ボク(あ、これ、昨日槻本さんが言ってたやつだ……)
教官「ま、そんなことはどうでもいいんだが、
今日の研修は皆に外に出てやってもらう」
教官「チーム対抗戦ウォークラリーだ」
ボク(ウォークラリー?)
おかしいです。
先輩たちからはマラソンと聞いていましたが、
歩くだけなのでしょうか?
ボク(なんだ、歩くだけなら意外と楽そうだな)
教官「あくまでウォークラリーだ。走る必要はない」
ボク(うんうん)
教官「だが社訓にもあるが、
我々は常にナンバーワンを目指さねばならん」
ボク(うんうん……)
教官「そして我々は結果でしか判断しない。
一位で帰ってきたチームは最大限に労うが
二位以下のチームは微塵たりとも評価せん」
ボク(うんうん……うん?)
教官「各チーム必ず一位を目指して帰ってくるように。
そのためにはどうすればいいか。……わかるな?」
ボク(それってつまり……)
走れってことですよね?!
こうしてボクらの二日目の研修
チーム対抗淡路島30kmマラソン
が始まったのです。
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