某有名ブラック企業に就職して新人研修に行った話21
→某有名ブラック企業に就職して新人研修合宿に行った話20
一同「！！」ｻﾞﾜｻﾞﾜ
教官「と、いうわけで、優勝は槻本班だ」
教官「素晴らしい！ みんな槻本班に拍手」ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ
一同「ﾜｰﾜｰﾜｰ」ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ
教官「ちなみに、この戦略は誰が考えたんだ？」
槻本班メンバーＡ「槻本さんです」
教官「なるほど。素晴らしい分析だ」
教官「俺は4発の銃弾をマス目に撃てと言ったが、
たしかに同じマスを撃ってはいけないなどとは一言も言っていない」
教官「そして、この戦略を実行に移すには全ての班の最後に
マス目を指定する必要がある。粘り、チャンスを伺い、
他の班を出し抜く。発想の柔軟さ、忍耐力……槻本くんは
我々全員のあるべき姿だ」
ボク（ベタ誉めだ……）
一位になれない者は評価しない。
だけど、一位になった者は全力で評価する。
この二日間の合宿でイヤというほど教え込まれたそれを
いまこの場で味わわされていました。
教官「よし、では本日の研修はこれで終了とする。
これから自由時間だが、明日も早いので各自速やかに自室に戻り
研修に備えるように。解散！」
教官の号令と共にみんなが動きだします。
各々が部屋を出て行く中で、ふいに後ろを振り返ると
槻本さんたちの班が、功労者の槻本さんを囲んで
喜びをわかちあっていました。
ボク「……」
～宿泊室～
宿泊室に戻り、明日の帰宅に備えて
荷物の片づけをしていると、メガネが声をかけてきました。
メガネ「あのー……大島さん」
ボク「？ はい」
メガネ「僕タバコ吸いたいんですけど、
付いてきてもらっていいですか？」
珍しく申し訳なさそうなメガネの申し出に
不思議に思いましたが、なぜわざわざそんなことを
頼みに来たのか見当が付きませんでした。
メガネ「あ、いや、ほら、ここって市の宿泊施設じゃないですか。
喫煙所がなくって……。みんな、タバコ吸うときは近くの浜辺まで
教官たちの目を盗んで行ってるらしいんですけど……」
なるほど。
要するにボクに見張り役をしてもらいたいということでしょう。
めんどくさいなとは思いましたが、
なんとなく今日の何とも言えない感情を処理するには
夜風に当たるのもいいような気がして、ボクは承諾しました。
～浜辺～
海が近づいてくると
何やら賑やかな声が聞こえてきました。
ｱﾊﾊ
ﾜｰ
ボク（ずいぶん騒がしいな……
こんなに騒いだら教官来ちゃうんじゃないか？）
そう思い、その集団のほうに
近付いてみると、驚くべき人物がいました。
ボク（きょ、教官？！）
教官「ん？ ああ、君はたしか――」
ボク「あ、えっと、大島です！」
教官「おお、そうだったな！ 君はマラソンのとき
途中経過の報告の連絡、スゲー元気がいいって
ベッキーが言ってたぞ。あっはっは」
ボク「あ、はい――じゃなかった、オッス！」
そういって、教官はボクの肩を親しげにポンッと
叩くと、再びタバコを吸っている他の研修生らと談笑を始めました。
メガネ「どうなってるんすかね、これ……」
ボク「わかんない」
教官の昨日や昼間とはまったく違う態度に
メガネも戸惑いを隠せないようでした。
ボク「な、なあ……」ｺｿッ
ボクは近くでタバコを吸っていた
研修生にこっそり声をかけました。
研修生Ａ「ん？」
ボク「教官いつもタバコ吸ってると
あんな感じなの？」ｺｿｺｿ
研修生Ａ「え？ あー……いや、昨日までここで
タバコ吸ってる奴見つけたらいつも通り怒鳴り散らしてたよ？
だからさっきここに来たとき、俺らも超ビビったんだけど、
すげー優しくってさ。マジ安心したわ」
ボク「そうなんだ……」
メガネ「大島さーん、
もう吸い終わったんで帰りましょう」
ボク「あ、ああ……うん、そうだね」
ボク「教官！ お先に失礼します！」
教官「おっ、お疲れさん！ 明日で最後だからがんばれよ」
最後まで”らしくない”教官の言葉を聞きながら、
ボクらは浜辺を後にしました。
ボク「なんだったんだ……？」
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