大島 薫｜おおしまかおる(タレント)オフィシャルブログ

→某有名ブラック企業に就職して新人研修に行った話22

１話から読む場合はこちら

教官「班長から時計回りに始め、

言うものは相手の肩に手を置き、

その不満を大声で叫べ！」

ボク（え……ちょ、なんで……

もう最後なんだから、良い気分で

終わらせてくれたらいいんじゃ……）

教官「気をつかって言っても意味がない！

自分の感じた怒りを精一杯

相手にぶつけるんだ！」

どんな理不尽な要求であろうと教官の命令は絶対です。

それほどまでに、ボクらの中で

教官は絶対的なものとなっていました。

教官「そして、言われたものは

全員からの不満を黙って

受け止めろ。始め！」

ボク（ちょ。ちょっと……）

戸惑っている時間はありません。

教官の指示が出たら、速やかに行動に移す。

それも合宿中に身体に染み込んでいました。

立ち上がり、皆がボクを見つめます。

ボクの時計方向の隣は

メガネでした。

メガネも戸惑いつつも、

立ち上がり、ボクを見つめます。

メガネ「……」

ボクはメガネの両肩に両手を置きました。

ボク（どうしよう……

この子はこれから同じ配属先になるのに……）

メガネ「……」

メガネは黙ってボクの言葉を待ちます。

ボク（ええい！　もうどうにでもなれ……!!）

ボク「斜に構えてんじゃねぇーよ！！」

一言そう言葉に出すと

次の言葉は自然と出て来ました。

ボク「本気でやらなきゃ

全部意味ねーんだよ！！！」

自分の声に自分で耳鳴りがします。

メガネ「……」

メガネは黙って聞いていました。

メガネの隣の元ヤンを見ます。

ボクが席に戻り、次は元ヤンが

何やらメガネに怒鳴っていました。

部屋に響く爆音の音楽で

何を言っているかは聞き取れません。

そうして、社長へと順番が回り、

またボクに順番が回ってきます。

元ヤン「……」

ボク（元ヤン……）

ボク「もっと自分の意見出してけよ！

黙ってちゃわかんねーだろ！！」

無口な元ヤンに

そう思ったことはたしかにありました。

そうして、またメガネと社長が

元ヤンに怒鳴り散らし、次の

人物へと順番が回ってきました。

社長「……」

ボク（社長……正直、お前には

不満だらけだ……！）

ボク「年上だからって

威張ってんじゃねーぞ！！」

それは合宿中

何度も口をついて

出そうになった言葉でした。

ボク「責任逃れで班長にならなかったくせに

自分の意見押し通そうとしてんじゃねーよ！！」

社長「……」

そのあとメガネが社長に

叫んでいた言葉がわずかに

聞こえてきました。

「年齢とかじゃないんだよ！」

意図せずに彼も同じことを思っていたようです。

そして、ボクが

言われる番が来ました。

メガネがボクに

近寄ってきます。

両肩にメガネの手が置かれました。

メガネ「同僚とばっか話してんじゃねぇ！」

ボク（！）

ボクは、この班のメンバーが

好きになれず、同じ出向先から来た

研修生とばかり話していました。

メガネ「俺らはチームなんだよ！」

いま思えば、入社したての彼らにとって

その姿は決して好ましいものではなかったでしょう。

メガネの顔は叫び過ぎて

真っ赤に染まっていました。

元ヤン「単独行動ばっかすんじゃねぇ！」

社長「自分の班をもっとよく見ろよ！！」

2人もほとんど同じことを叫んでいました。

ボクは彼らの気持ちにまったく気付けていませんでした。

ボクらの班が一通り終わったあたりで、

周りの班からも怒鳴り声が止んできました。

それを見計らって教官が

また指示を出し始めます。

教官「よし。では、次は

もう一度相手の肩に手を置いて今度は

その人の良かったことを言ってやるんだ」

教官「優しく、語り掛けるように、な」

教官のその一言で

研修生たちにわずかに笑みが戻りました。

ボクは立ち上がります。

メガネ「……」

メガネも立ち上がりました。

ボク（……よし）

ボク「メガネ……君はいつも

気難しい社長をなだめてくれたね」

メガネ「……」

メガネは、泣いていました。

ボク「君が社長とボクの間に入ってくれていたから

ボクはあの人とぶつからずに済んだよ。ありがとう」

一巡して、元ヤン。

ボク「元ヤン、情けない班長のボクの指示にも

ちゃんと従ってくれたね。嬉しかったよ」

社長。

ボク「社長、ボクみたいな若造の下なんて

本当はすっごくイヤだったと思うのに、この三日間

耐えてありがとうございます。本当にお疲れさまです。」

そして、ボクの番が来ました。

メガネ「大島さん、班長本当にお疲れさま。

大変だったよね」

まだボロボロと泣きながら、

メガネはボクにそう告げました。

「大変だったよね」という言葉が的を得過ぎているのが

お互いに伝わったようでボクらは同時に微笑んでいました。

ボク「メガネ、泣き過ぎ……（笑）」

メガネ「それをいったら……」

ボク「え？」

ボクも泣いてました

というか、

全員泣いてました

そして、元ヤン、社長からも

労いの言葉をもらい、ボクらは

この三日間の合宿を終えました。

帰りのバスで社長が

こう話しかけてきました。

社長「ねぇ、大島くん。

アドレス教えてよ」

ボク「あ、いいですよ」ﾋﾟﾛﾝ

そう言われ、アドレスを交換すると

社長は妙に満足げに

社長「俺さ、社長時代は

自分は誰よりも仕事ができて、誰よりも偉いって

本気でそう思ってたよ」

社長「いまは倒産して何もないけど、

もう一度この会社でがんばっていこうと思う。

仕事に慣れたら皆で集まって飲みに行こうよ」

そう言いました。

彼の中で確実に何かが変わっていました。

ボク「……はい！」

って、

こんないい話で終わるかーい！

こちとら

超が付くほど有名なブラック

に勤めてたんやぞ！

こんな綺麗に終わって

たまるか！！！！！

というわけで、

あと1話、ネタバラシ的な話があるので

もうちょっとだけ続きます。

←続きます