（その2／全4話）多くの方が感じた目覚め。そしてモラトリアム。
福島の原子力発電所が大爆発して、放射能のプルームが
関東に流れてきていた日も、僕は近くのスタジオで
サンバのレッスンを開いていました。
こんにちは。初めましての方もそうじゃない方も。
SambaダンサーのMasashi（マサシ）と申します。
いくら目覚めたといっても、それまでこびりついた垢は
そう簡単に落ちません。日々流される情報、
自分でネットを使って集める情報のギャップに
揺れ動いていました。
やっぱりそうか！と思った次の瞬間、
でもひょっとしたら？
の繰り返し。
気を付けようと思いながらも、
俺は大丈夫だろうと思う。
ただ、僕の子供はまだ生後3か月でした。
体を洗うお湯ですら悩みながら使っていました。
これ大丈夫なのか？
飲み水はすでにペットボトルのものに変えていましたが、
近所の量販店、ドラッグストア、スーパーはすべて品切れ。
唯一仲の良かった４軒となりの小さな八百屋だけが、
僕ら家族のために水を確保しておいてくれたので、
何とかしのいでいました。
ちなみに緊急物資の配給があるから取りに来てくださいと
台東区から電話があり、幼い子供がいるからと
役所にもってきてもらったのですが、ひと家族分の飲料水
として500ミリリットルの水2本。
目張りした薄暗い部屋の中、
4階建てのアパートの４階は余震のたびに大きくきしみます。
会社からは最後通告を受けましたが、幸い１０月までの
モラトリアムをもらいました。
その間に今後の生き方を考えよう。
ちなみに、家族には言えませんでした。
あてもなく考える中、
毎晩見る夢がありました。
それは行先のわからない電車に慌てて飛び乗る夢。
そして夜中の２時か３時に目が覚め、朝まで寝られない。
酷いときは4階の階段を誰かが上がってくる夢。
部屋の扉が開けられそうになっているのに動けない。
真夜中に叫びながら飛び起きることもありました。
ただ、少しずつ生活の中に変化が生まれてきました。
それは原発の爆発の影響で
自分たちの食べているものを見直しだしたということ。
有機野菜、食品添加物などをテーマにした勉強会に
参加するようになりました。
食べ物を気にするようになると、
お付き合いする人の層も変わってくる。
それまで触れることのなかった情報が入ってくる。
そうすると、それまで考えもしなかった発想が生まれてくる。
意識が高まる。それまで胡散臭いと思っていた人たちの
言葉も受け止められるようになる。
谷中、上野界隈で開かれる幼い子供を持つ家族同士の
お集まり会。
そこで交わされる生の情報。繋がり。
それぞれが抱える不安。
今まで参加したこともなかった健康体操にも参加し、
自分の体に問いかけるということも初めて知った。
目覚めから、意識改革の黎明期だと思う。
その時にできた新たな発想や繋がりが現在にいたるまでの
出発点だったと思う。
モラトリアムの間、移住という言葉が出始めたのは、
普段ならサンバの活動で忙しい真夏。
自分たちの高まる意識に従うように
幼い子供を連れて長野に向かいました。
現実味を感じない移住先探し、半分観光、
そしてヒントを探して
その時に会うべき人に出会う旅でした。
実際、毎日流れる災害情報にも疲れていたし、
部屋を閉め切って福島からの風向きを気にする
のも疲れていました。
東京を抜けると電車の車窓から見える風景が市街地の
薄灰色から濃い緑に変わっていきます。
自分が守ろうとしている日常が何なのか、ひょっとしたら
また何事もなかったように、同じ日々に戻るんじゃないか？
だとしたらこんなことに時間を使う意味があるのか。
でももう、それまでの日常に身をゆだねる気にもならない。
俺はホントはどうしたいんだ？
気持ちの中では常に一進一退。
ただ電車だけが進んでいく。
(つづく）
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