大切なのは選択肢があること。適サシ肉宣言1周年の会
1ヶ月ほど前、適サシ肉宣言1周年の会に参加しました。
こんにちは。
〜人とお肉をつなげるサイト〜Meat UP!主宰の片平梨絵です。
東京浅草の老舗すき焼き店「ちんや」が「過剰な霜降り、5等級を使用しない」という適サシ肉宣言をして1年。
適サシ肉のメディアへの露出は40回を超えたそうです。
和牛の霜降りを過剰と感じる人が少なくないことを物語っているようで…。
和牛関係者は真摯に受け止めるべきなのかもしれません。
そもそも
適サシ肉とは何だろう…。
私は、適サシ肉とは、ちんやさんによる、ちんやさんのための提供すべき理想の牛肉、と解釈しています。
だから、適サシ肉の定義から外れる5等級でも素晴らしく美味しい牛肉はある。
1周年の会では「適サシな肉は東北の牛が多い」と、ちんやの住吉さんが発言されていましたが、ちんやさんの仕入ルートの中ではその傾向になるということなのだと思います。
30ヶ月以上飼っていればどんな牛でも良いわけでもなく、脂っこい牛もいる。
牛肉の美味しさを決定付ける一番の要素は血統だと私は考えています。
血統で脂の融点、赤身の旨みも大きく変わることを常々体感しているからです。
次に大事なのは肥育期間の長さ。
血統を問わず長く飼うことで脂の融点は低下する。1ヶ月長くなるごとに、脂の融点は4%程度ずつ下がることが文献でも明らかになっています。
長く飼うことで赤身肉に含まれるアミノ酸も蓄積していきます。アミノ酸は、牛肉を加熱した際の、メイラード反応に欠かせないのです。
もちろん餌も大切です。
そして、性別。
これは好みなのですが、雌牛と去勢には明らかな食味の違いがある。
雌牛独特の甘い香りは去勢にはないし、筋繊維も雌の方がきめ細かい。
ただ、だからといって雌だけが良いわけでなく、去勢の方があっさりして良いと表現する人もいるのです。
嗜好性は人それぞれ。
ガチガチな霜降りがどんぴしゃな人もきっといるのです。
大切なのは選択肢があることです。
しかし、日本の黒毛和牛は、生産性、採算性が追求された結果、全国的に同じような血統になり、個性がなくなってしまった。もはや仕入れ段階においても選り好みすることが難しくなりつつあるのです。
霜降り一辺倒で改良が進み、今、和牛の5等級は希少ではなくなりました。
でも、日本に流通する多くの牛肉は牛枝肉取引規格に基づき価格が形成されます。生産も流通も「格付」を基軸に生活している人がほとんどなのです。
だからこそ、正面切って5等級を否定するちんやの適サシ肉宣言が与えた影響は大きかったのでしょう。
4等級で仕入れた肉は必ずしも5等級よりも安く販売しなければいけないのか。
そんなことはありません。
建値市場で評価されなくても、価値ある牛肉であると認められさえすれば、5等級の牛肉より高い値段でもお客はつく。
目利きの真価が問われるのです。
ただし、
新価値創造と伝達にはたいへんな労力が伴います。
ちんやさんの適サシ宣言は、既成概念にとらわれず、「ちんや」としての牛肉の定義を磨き込み、付加価値化を図った。ということ。
自分にとっての美味しい牛肉はどんな肉なのか。
こんなシンプルな答えにも窮する状況こそ、適サシ肉宣言が過熱した理由のようにも感じます。
主宰:片平梨絵
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