中国解禁控え急がれる法整備、2020年は和牛卸価格の節目
和牛の卸売価格は消費増税による外食不振や大型台風などの影響で在庫過剰感が強まり、2019年の年末にかけて大幅に値下がりしました。
これは、2020年の和牛市況が東京オリンピックを控えた活況期待とは裏腹に、大きな節目を迎えることを暗示しているのかもしれません。
卸売価格を決める牛肉の建値市場は需給動向と業者の様々な思惑が錯綜して形成されるものです。
最需要期の12月を迎えての急落は、これまで需要実勢といかにかけ離れた相場推移を辿ってきたかを露呈するものだったといえましょう。
枝肉価格の下落を受けて、和牛の子牛価格も下振れ傾向にあり、年明け以降の相場展開を不安視する声が強まっています。
大手卸や肉牛企業は繁殖肥育一貫体制を強力に推し進めており、建値相場による価格変動リスクを吸収する体制を整えつつあります。しかし「中小農家は子牛相場が下げ進めば離農が進み、供給基盤が再び揺らぐ」との懸念が出ています。
政府は海外市場での需要増を見込んで、35年度の和牛生産を30万tまで増強する計画を策定しました。
補正予算案には繁殖雌牛の増頭奨励金などが盛り込まれています。
国の政策に安堵する方々や新たな事業に取り組む人も多いかもしれません。
ただ、国の助成を利用しようとするあまり、補助対象となることが第一義になると、本来、最も重視すべき消費者ニーズを見失いかねません。
デフレが進む消費飽和の時代とはいえ、これ以上の価格競争はかなり厳しいものがあります。
政策にそって、生産者が同じ方向へ一斉にアクションを起こすと、結果的にレッドオーシャンに飛び込むことになりかねません。
収益条件の厳しい市場で生き残れるのは一握りの大手だけのはずです。
相場ありきの取引では限界もあります。量や価格ではなく「質」を追求するため、繁殖〜肥育〜食肉卸が連携し商品価値を共有することでブルーオーシャンを見出すことが生き残る道ではないでしょうか。
相場に一喜一憂し、出荷者と購買者で腹を探り合う関係では消費者目線から遠ざかるばかり。
国内市場の行き詰まりから、マーケティングなしに海外市場に活路を見出しても本質的な課題解決には繋がりません。
膨れ上がった和牛在庫の投げ場として中国解禁に期待を寄せる向きもあります。
しかし、仮に輸出が可能になれば、中国企業は供給元の川上を抑えにかかるような事態も想定されます。
実際、北海道や九州などの主産地では中国企業からのアプローチがすでにあると聞いています。
日本の和牛はもちろん、水資源など様々な利権の関わることであり、法整備が急がれます。
2020年は和牛の未来の明暗を左右する年になるかもしれません。
日本の和牛の価値をいま一度見直したいものです。
全国農業新聞2020.1.10付より
主宰:片平梨絵