初めてタクシーで笑った。
最近のタクシー、女性ドライバーも多い。
山形でタクシーに乗った時の出来事。
その天童よしみ似の若干ふくよかなドライバーの方は、気さく過ぎて、ほとんどタクシーでは会話をしない私でも話術に引き込まれて行った。
私がさくらんぼの話をすると、『今はもう終わりだぁ。さくらんぼったって、20数種類あります。山形では誰かしら農家の人知ってで、佐藤錦なんが、コンデナでもらうがら、食べぎれねんだ。ちょっと傷付いた物は売り物にならなぐて、山ほどもらうんだ。一番甘ぐなったのが、すぐいだみ(傷み)やすいがら、地元の人は一番美味しいどこ食べてるんだ。
わだすを見て頂ければわがるどおり(通り)、わたすの体は山形の甘いもんで出来ております。
だからこんなになってしまって…(笑)』
果樹が多く、果物王国なのである。
私は言った。
私:『じゃあ運転手さんは一番美味しい所を食べているから、“今が一番甘くて食べ頃で完熟”って事ですよね。高級なさくらんぼのように。』
運転手さん:『あひゃー!女のツボをグイ〜グイ刺激する。たまるのは脂肪ばかりで、おがね(お金)はたまんね(笑)』
私:『冬を越す為に、“貯金”しとけばいいんじゃないですか?それにビタミンをたっぷり摂取しているから病気にならないでしょう。』
『ハハハ。お陰で風邪引いたごと(事)ねんだ。インフルエンザのお客さん乗せでも、かからないんだ。山形は夏は夏、冬は冬の食べ物がちゃんどあるがら、それがいいんだ。しぇづ(季節)の食べ物食べて、わだすは体力あるんだ。わだすが痩せだどきは、死ぬどきだぁ。いづもばんちゃん(おばあちゃん)がばんげ(晩)のごっそう(ご馳走)つぐって(作って)くれるのが楽しみでなぁ…。』
山形弁で話す陽気な運転手。
突然、『右手後ろが蔵王連峰。左手前方が月山です。月山の向こうには庄内があります。わたすは庄内出身。誕生日にあの月山を越えてみようかど思っでるんだげど…。いにしえの古道旧60里越街道があっで、記念の為と体を浄化させる為に歩いてみようがと、思ってんだけどさ。3.11の影響で橋の一部が壊れてね………。この道路のガタンガタンってのも震災前はながったんだぁ…。』
太平洋側とは反対の山形県でも影響があったようだ。
『山形ではこれは名物という物はありますか?』
こう聞くと、『ご覧の通り360度山です。だから夏は暑く冬は寒い。寒暖の差が激しい。過酷な環境で育ったものは何でも美味しいですよ。“生きよう”として生命力が強ぐなる。』
まさに命の恩恵。
人間にも当てはまると思った。
運転手さん:『庄内産の米が美味しい。あど、日本酒、焼酎、ワインなんでも美味しい。』
私:『水が美味しいのですね。』
運転手さん:『んだ。水は美味しい。』
私:『今色々問題が出ておりますが、牛はどおですか?』
運転手さん:『米沢牛もあるけど、山形牛も柔らかぐで、美味しいどぉ。サシの入り方がいいんだわ。しつこくなぐでね。』
そんな会話をしつつ、目的地が近付いて来た。
私:『いやー、運転手さんのお陰でちょっとした観光気分になれました。完璧なガイドありがとうございました(笑)』
運転手さん:『いやいや、わだすは山形に来でもらったお客さんに“山形ラブ”になっでもらいだいがらぁ…。それがわだすの使命ですがら。』
聞き取れなかった山形の方言も、わずかなヒアリングによって最後はほとんど聞き取れるようになっていた。
いつかプライベートで行って、またあの運転手さんのタクシーに乗り、案内してもらいたいと思った。
タクシーの窓には“頑張ろう東北”の文字があった。
生粋の山形の方言を聞いて、東北の人々の力を感じた。
“やまがたラブ”
無事に60里を越えられますように…。