大村あつしオフィシャルブログ

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　私は以前ＩＴライターでしたが、もう一つ、会社の経営者という顔がありました。大学時代からコツコツとアルバイトで貯めたお金、四年間のサラリーマン生活で貯えたお金で、二十六才のときに念願の自分の会社を興しました。その後の十二年間は、執筆業との二足のわらじながらも、必死に会社経営に取り組んできました。

　ところが、2004年2月、諸事情により、命の次に大切なその会社を手放すことになったのです。そのときの私の悲しみは、とても言葉で言い表せるものではありません。

　さらに、その悲しみに追い討ちをかけるように、「この先、自分の人生はどうなってしまうんだろう」という不安が押し寄せてくる、そんな毎日でした。

　実は、くだんの先生にお会いしたのは、そんなどん底の状態のときだったのです。話を伺った私は、帰宅した後、ベットに横たわって天井を見つめていました。そして、先生の教えのとおり、幼い頃よく遊んだ美しい小川の記憶を呼び起こしました。滞った負の感情がサラサラと流れる、そんなイメージを持つためです。

　すると、驚いたことに、一筋、また一筋と涙が頬をつたい始めたのです。本来なら、そこでぐっと涙を押し込めるところですが、私はあえて感情に身を任せました。すると、涙はとめどなく溢れ、やがては仰向けでいることができなくなり、横を向いてエビのように体を丸めると、大声で泣きじゃくりました。こんな泣き方をするなんて、大人になって初めての経験です。

　しかし、時間にしてどれくらい経過したのかはわかりませんが、涙が枯れる頃には、私の悲しみはかなり軽減されていました。

　さらに、その日を境に、自分の将来に対する不安に関しても、かなり前向きに考えられるようになりました。幸いなことに、私はＩＴ書籍を執筆する仕事まで手放してしまったわけではありませんので、「とりあえず、食べるには困らないじゃないか」と思えたのです。さらには、「もしかしたら、これからが本当の勝負なのではないか？　今なら、誰に気兼ねすることなく自分の本当の夢である小説家を目指せる」とまで思えるようになり、実際に私は、その年の７月に小説家を目指して上京、そして、その３年後に『エブリ リトル シング』でついに小説家デビューを果たすのです。

　話を戻します。こうして不安を拭い去ると、随分と気持ちが軽くなり、これこそが精神エネルギーがサラサラと循環している状態なのだと実感することができました。

　さらに言えば、会社の経営から退けば、自分の時間のすべてを執筆に注力できます。そこで私は、数年来の念願だった、「恋愛小説でありながら読み終えるときにはＩＴに関する一定の知識が身に付く」解説書に着手することにし、実際に出版にこぎつけました。この本には、通常のＩＴ書籍の四倍、五倍の時間と労力を注ぎました。もし、私が会社の経営を続けていたら、一生世に出ることはなかった本かもしれません。

　その先生は、話の最後をこう締めくくったことを今でもよく覚えています。

「涙は心を癒します。笑いは免疫力を高めます」

　感情を押し殺して「気」を滞おらせても、ストレスを増幅させるだけです。悲しいときには泣きましょう。不安なときこそ笑いましょう。

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