命取りの検索
今日は青空が眩しい１日でした。特に午後からはよく晴れてきて、夕方の大阪湾が青く輝いています。こんな綺麗な海を久しぶりに見たような気がします。それでも午前中に出かける前は雷が鳴って、かなりの雨が降りました。
晴れていますが、大気は不安定なようです。写真のような入道雲が、午後からはずっと見えています。時おり冷たい風が吹き込むので、どこかで雨が降っているのかもしれません。でもこの空を見ると、本格的な夏が近づいているのを感じますね。
さて、昨晩はずっと読み続けていた長編小説を読了しました。小さな活字で500ページほどの量がありましたから、読み切るのに４日近くかかってしまいました。でもそんな長さを忘れるほど、夢中になって読んだ作品です。
『モダンタイムス』伊坂幸太郎 著という本です。
いつもながらの伊坂節が満載の小説です。とんでもないキャラを持つ登場人物たちが、飽きさせることなく物語を進行させていきます。ところが読んでいる途中で、物語の背景にあるものを知っているような気がしました。何だろう、と思いながら最後まで読んで、著者が書いたあとがきを見て納得しました。
この小説と同じ時期に、『ゴールデンスランバー』という伊坂さんの代表作を併行して書かれていたそうです。私が彼の作品で最も好きな物語です。さらに映画が作品を超えるかと思うほど素晴らしかった。このブログでも紹介しました。
その『ゴールデンスランバー』は首相暗殺に関わる冤罪がテーマでした。全く身に覚えのない主人公が、突然暗殺の犯人に仕立て上げられる。それも長い時間をかけて個人の情報を牛耳り、身代わりの人間まで用意して計画された暗殺です。その背景にあるのは、「国家」という得体の知れないシステムです。
一人一人の人間は、誰かから命令を受けて行動しています。しかし全体を把握しているわけではない。システムの部品の一部でしかないわけです。だから個々の人間が抱くのは罪悪感ではなく、命じられた仕事をしているという感覚だけです。戦争中に飛行機から爆弾投下のスイッチを押すのと同じですね。
形を持たない、実態の見えない「国家」というシステム。『ゴールデンスランバー』だけではなく、『モダンタイムス』でも敵はそのシステムでした。著者があとがきで書かれていますが、それぞれの作品に無いものを反映するよう、意識して書かれたそうです。『ゴールデンスランバー』というのは、かなりシリアスな物語でした。ということは……。
『モダンタイムス』は、正反対に笑い転げる物語です。しかし恐ろしい。主人公の渡辺拓海は、SEの仕事をしています。ある会社のプログラムを修正している時、そこに隠されていた暗号を発見します。そしていくつかのワードを組み合わせて検索すると、見たことも無い出会い系サイトに繋がります。しかし一度でもそのワードで検索した人間は、たちどころに命を狙われます。
その背景にあるのは、ある中学校の出来事です。９人の武装した侵入者が学校を襲撃し、クラス全員の生徒や教師を殺害します。この学校の名前、そしてある人物、会社名等を検索すると命を狙われるのです。まさしく命取りの検索ですね。まぁ、このあたりの展開がめちゃくちゃ面白い。
物語のかなり後半にならないと真相がわかりませんから、気になる方はぜひ読んでみてください。私たちは、何かわからないことがあったら検索しますよね。そうしたワードはネットで反映されて、それに関する広告等が表示されます。つまり情報が流れているのですよね。
そうしたネット社会の実態を交えながら、恐怖と笑いを織り交ぜた物語です。「国家」というシステムに立ち向かっていく主人公たちが面白すぎです。特に主人公の妻である佳代子は最高のキャラです。こんな女性が本当にいたら凄いかも。心に残る作品でした。
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