信頼が創り出す奇跡
秋晴れの神戸です。東向きのバルコニーに朝早くから太陽の光が射し込んでいるにも関わらず、夏のような暑さを全く感じませんでした。ミューナは朝から気持ちよさそうに日向ぼっこしていました。すっかり秋です。
昨日の散歩中に見つけた萩の花です。この花を見ると秋を感じます。それでも時おりツクツクボウシの声が聞こえたり、美しい花を見せている百日紅もあります。まだ夏も頑張っていますね。
毎朝の掃除は我が家の日課ですが、時々は追加で普段やっていない箇所を掃除します。私が大好きなのは台所の排水口の掃除です。すぐ見える部分は夕食後に綺麗に洗っていますが、奥の分解掃除までは毎日というわけにいきません。でもしばらく放置しておくと、どうしても汚れてきます。
2〜3週間に一度くらいですが、完全に分解してパイプに手が届く範囲までピカピカにしています。掃除した直後は自分の体や心が綺麗になった気がして、言葉にできない爽快感を感じます。ですからこの分解掃除はいつも私にやらせてもらっています。
今朝は通常の掃除が終わってから、排水口の分解掃除をしました。やっぱり気持ちいいです。秋晴れの空が、さらに美しく感じます。そしてその後の仕事や読書も、スムーズに進めることができます。その勢いで先ほど本を1冊読了しました。
『海賊とよばれた男』百田尚樹 著という本の下巻です。
先日上巻をブログで紹介しましたが、そのまま一気に下巻も読了してしまいました。上下巻合わせて800ページを超える長編ですが、その長さを感じないほど物語に没頭してしまいました。下巻は戦後の高度経済成長の国岡商店こと出光興産と、主人公である国岡鐡造、つまり出光佐三さんが95歳で亡くなるまでが書かれています。
上巻はたまらなく面白かったのですが、下巻はさらにめちゃくちゃ面白いです。史実があるわけですからストーリーは決まっています。ところがそんなことを感じさせないほど百田さんの文章が素晴らしい。巻末の参考文献を見ると、驚くほど勉強されているのがわかります。だからこそ読者の心を惹きつける文章を書かれるのだと思います。
圧巻だったのは、秘密を貫いてイランからの原油輸入を成功させたシーンです。イギリスに搾取されていたイランが、原油を国家事業の基軸にしようと決起します。国民の生活がかかっているわけです。ところが利権を手放したくないイギリスは、イランに寄港するタンカーを拿捕して原油を取り上げるという行動を取ります。石油が自分たちのものだと主張しているからです。
アメリカも同調してイギリスの味方をしますから、どの国もイランと契約しません。だってイギリス艦隊に船を沈められたくないですからね。ところが出光興産の日章丸というタンカーはイランとの貿易を成功させます。船長の機転によりイギリスの拿捕を逃れて、日本に原油を持ち帰ったのです。まるで映画を観ているように興奮しました。
日本どころか、世界中が注目した出来事だったようです。その後のイギリスが起こした裁判にも勝利して、出光は莫大な利益を上げることになります。こんなことが昭和史にあったのですね。その後、アメリカがCIAを使ってイランにクーデターを起こします。結局はイランは欧米に再び搾取されることになります。それが昭和50年代のイラン革命につながります。
その他にも日本の高度経済成長の時代を、既得権益と戦い続けてきた主人公とその会社の奇跡のような出来事に驚くばかりでした。山口県の徳山に建設された当時では日本最大の精油所があります。どんなに工期を急がせても、2年以上はかかると言われた大工事です。
それを10ヶ月でやるように鐡造こと佐三さんは命令します。ところが奇跡のような出来事が続き、本当に10ヶ月で完成させました。社員たちだけではなく、建設業者やアメリカの機材納入会社まで、休むことなく働き続けた結果です。誰もが一丸となって家族のように行動していました。
それは社長である鐡造の、社員に対する強い信頼があったからこそです。戦後すぐ全く仕事がない頃、たった一人の社員もクビにしませんでした。それどころか、私財を投げ打って自分が無一文になる覚悟で給料を払い続けられたそうです。戦後の混乱ですぐに職場に復帰できない社員に対しても、生活の足しになればと社員の自宅まで個人的に送金されていました。そんな鐡造の思いが、驚くようなことをやってのける社員を創り出したのです。
だから社員たちの働きぶりは凄まじいです。高度経済成長を支えてきた人たちが、どれだけ必死で働いてきたのかを教えてもらいました。現代では「ブラック企業」などと揶揄して不当な労働を排除しようとしています。でもこの物語に登場する社員たちは、とてつもない過酷な労働を経験してきています。「ブラック企業」が可愛く見えるほどの過酷さです。それなのに誰もが笑顔で、喜びを感じて働いています。
働くとは、生きるとは、喜びとは、そういうことを真剣に考えさせてもらえる小説でした。過激な発言で何かと世間を騒がせている百田さんですが、本当に素晴らしい作家だと思います。久しぶりに最初から最後まで興奮し続けた作品でした。
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