ロケットボーイズ
いや〜、寒い、寒い。強烈な寒波は神戸上空にも居座っているようで、晴れたと思ったら雪のくり返し。神戸に引っ越して9年目だけれど、これほどひんぱんに雪が降るのは初めてかもしれない。
子供のころから妄想癖のあったボクは、冬になると必ず布団のなかで楽しんでいた妄想がある。それは空飛ぶお風呂〜〜www
ある意味究極の露天風呂だよね。一人用サイズで、いつまでも適温が保たれる。そして頭に思い浮かべた場所へ、その浴槽ごと飛んでいけるというお風呂。
重要なポイントは、他の誰にもその姿が見えない。だから裸でも大丈夫。もし今でもそんなお風呂があれば、きっと喜んで入ると思う。
そんな子供のころの夢を、大人になることなく実現させたという実話小説を読んでいるところ。
『ロケットボーイズ』ホーマー・ヒッカム・ジュニア著
昨日読了したのは上巻で、今夜から下巻を読む予定。
主人公は、アメリカのウエストバージニア州のコールウッドという街に暮らす高校生のサニー。コールウッドは炭鉱で働く人たちが暮らす街で、サニーの父親は現場の責任者でもある。
物語が始まる1957年のコールウッドは、炭鉱関係者以外は暮らすことのできない街だったらしい。怪我をしたり死亡したりすると、自動的に住居から出て行かなくてはいけない。現代では考えられないような生活が、そこでは営まれていた。
ちょうどその年、ソ連が初の人工衛星であるスプートニクの打上げに成功する。冷戦真っ最中のソ連とアメリカは、宇宙開発でも競い合っていた。ところが明らかにソ連にリードされてしまった。ほとんどが実話なので、そのあたりのアメリカ人の動揺がリアルに描かれている。
サニーはそんなソ連の人工衛星打ち上げを知って、自分もロケットを飛ばしてみたい思う。友人たちを集めて最初は花火の火薬からスタートさせる。やがて上巻の終わりには、固形燃料から液体燃料にまで進化したロケットを、高校生たちだけで飛ばすところまで話が進む。
ある書評でこの本を知ったが、軽い気持ちで手に取った。ところが想像していたより、はるかに面白い小説だった。著者によると、公にできない人物名が変更してあったり、ある出来事を複数の人物の行動として脚色してある程度で、基本的には実話にもとづいて書かれている。
でもキャラを練りに練って作り上げた小説のように、驚くほど完成度が高い。これが実話なんて、まさに「事実は小説よりも奇なり』だと思わざるを得なかった。
特に魅力的なキャラなのがサニーの両親。父は炭鉱のことしか頭にない堅物。息子がロケットを作るなんて、頭から否定してかかる。将来は父のあとを継いで、炭鉱で働くことを息子に強要している。
ところが母は正反対。近い将来この炭鉱の石炭が掘り尽くされることを知っていて、コールウッドの街を出て広い世界に羽ばたくよう、サニーに言い続けている。だからどれだけ父が反対しようと、母は必死で息子をかばい、助力を惜しまなかった。
この翌年の1958年、アメリカはソ連に追いつくためにNASAを創設する。これから迎える宇宙時代に、田舎の街の少年たちがロケットを飛ばそうとする姿に心打たれる物語になっている。そうした時代背景がよく描かれていて、当時の世界観をリアルに感じることができた。
サニーはどちらかと言えば自信のない高校生で、積極的に何かをやろうというタイプではない。でもロケットに情熱を燃やすことで、科学に関心を持ち、必死で数学や物理を勉強するようになる。目的を持った人間がどれだけ学ぶことに対して貪欲になるかを、サニーという少年が証明している。
やる気がないのは、やりたいことを見つけていないだけ。そういうことだと思う。
下巻でサニーたちのロケット作りがどのようになるか? また今夜から1950年代のコールウッドへの旅に出ようと思う。できることならば、空飛ぶお風呂で行きたいよなぁ。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。