視点のコントロール
人間にとって視点というのは大きな要素。どの視点から見るかによって、世界はまったくちがってくる。
今日のような朝から雲ひとつない真っ青な空でも、人は同じ気持ちでその空を見つめていない。
暖かそうと思う人がいれば、寒そうだと感じる人もいる。晴れ渡った天気で気分が高揚する人もいれば、この空の青さががかえって辛く感じる人もあるはず。
だから映画や小説は、どの視点で物語を進めるかがとても大切になってくる。素晴らしい作品は、その物語に触れる人の視点を迷わせることなく、ひとつの方向に導いてくれる。そんな見本となる素晴らしい映画を観た。
『恋におちて』(原題: Falling in Love)という1984年公開のアメリカ映画。
ここのところ『ゴッドファーザーPART2』や『タクシードライバー』という、ロバート・デ・ニーロの若いころの映画を続けて再見した。そんな名優のちがった演技が見たくなったので、久しぶりに彼の恋愛映画を借りてきた。
説明するまでもなく、超、超、超、有名な映画。合わせて4度も共演しているメリル・ストリープとの2度目の共演がこの作品。かなり忘れている部分もあったので、じっくり見直すことでこの映画の素晴らしさを再認識させられた。
簡単に言ってしまえば、ダブル不倫の映画。クリスマスの書店で偶然に出会ったことで、恋に落ちる二人。だが二人とも結婚している。
客観的に見ればこの二人に感情移入するのは難しい。ところが映画が進むにつれて、つい二人を応援している自分がいる。それはこの映画が持つ、視点のマジックだと思う。そしてそのマジックを引き寄せているのが、オスカー俳優の二人の演技であることはまちがいない。
この映画の主人公は、どちらもシャイな人間で、互いの状況を自覚している。でもやがて運命の出会いとしか思えなくなってくる。観客にそう思わせたら、それは俳優と監督の勝利だよね。
例えば脚本がイマイチだったり、監督の演出や俳優さんの演技がダメだと、観客の視点はさまよってしまうことになる。そうすると主人公の二人の、夫や妻に感情移入してしまうかもしれない。そうなるとこの映画はただのドロドロしたドラマで終わってしまう。
最後まで観たあと、感動して涙が流れたり、心が癒されるのは、最初から最後まで視点がブレていないからだと思う。主人公のフランクもモリーも、愛すべき人物として感じ続けることができるからだと思う。
この映画をじっくり見ていると、俳優さんがどれだけ難しい演技を要求されているのかがわかる。長回しのシーンが多く、少ないセリフで感情表現をしなくてはいけない。ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープという、オスカー俳優だからこそ成立した映画だと改めて感じた
特にラストが最高だよね〜〜! もう会えないと思った列車のなかで、互いの姿を見つけるシーンには泣けてくる。ラッシュで混雑している他の乗客を押しのけて、二人が抱き合う場面に感動する。その前提として、二人が将来に結ばれる可能性があることを観客はチラリと見せられている。
だからラストでのモリーの表情に、かすかな希望を見出してしまう。なんて素敵な映画なんだろう。映画の流れに沿って、視点をコントロールされる幸せを味わえる映画だと思う。やっぱり見終わって幸せな気分になれる映画は最高!
去年のベッキーの不倫問題で彼女を批判した人でも、この映画を観れば主人公の二人を応援したくなるはず。それは視点がちがうからだと思う。人間の感覚なんて、いい加減なものということかもね。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。