SOLA TODAY Vol.196
10年ほど前の話になるけれど、京都の大きな総合病院に行くと、事務職員らしき人がウロウロと歩いているのが目についた。
何をしているのだろうと思って見ていると、カルテを運んでいることがわかった。患者さんのカルテをどこかで一括管理していて、必要な医師のところへ運んでいたのだ。
今から思うと、なんてアナログな世界なんだと呆れてしまう。それだけを主な仕事にしている人がいたくらいだからね。ちょっと進んだ病院でも、透明のパイプのなかをカルテが自動で運ばれていたりした程度。アナログはアナログだった。
最近はさすがに総合病院では電子カルテが普通になっているから、病院のサーバーに保存されている。だから診察する内容や医師が変わっても、過去の受診歴や投薬の有無を知ることができる。
だけどそれはその総合病院内だけでのこと。別の病院でそのデータが使えるわけじゃない。病院の経営方針や医師の守秘義務等があって、セカンドオピニオンを得ようとすると、患者が別の病院で一から説明する労力が必要になる。
アメリカではそんな不便な状況を改善しようと、「共有型の電子カルテ」(EHR:Electronic Health Record=病院を越えて共有される医療情報)が導入されている。ところがトランプ政権は、このEHRの活用に反対の態度を表明している。
その反対理由と、改善策を提言している記事を読んだ。
トランプ政権が反対する理由は、医療データがの共有がうまくいっていないから。病院で管理している電子カルテを共有できるデータにするため、医師は多大な時間と労力を要している。
患者との対話よりも、電子カルテを入力することに時間を取られてしまう。その結果医師は疲れ果て、燃え尽き症候群が増加しているとのこと。
さらに現状のデータ管理技術では、安全にデータを共有することができない。電子カルテというのは個人のプライバシーの宝庫。技術のあるハッカーならば、簡単にデータを盗むことが可能だろう。
その解決策として導入が進められているのがブロックチェーン。これはビットコイン等の仮想通貨の根源をなしているシステム。ボクはこの完璧なシステムに期待していて、様々な分野で応用できると思っている。
ブロックチェーンはその名前が意味するとおり、取引データを収納したブロックが鎖のようにつながっているシステム。一般のデータのように、特定のサーバーに保存されていて、そこにアクセスすることでデータを受け取るというものじゃない。
このシステムに関わる『全取引』が、利用する人のすべてのネットワークで保存されている。だからハッカーがハッキングしようと思うと、すべてのブロックについて侵入しないとデータを盗むことができない。どれだけ優秀なハッカーであっても、理論的にデータを盗用するの不可能。
その『全取引』から必要なデータにアクセスするために、秘密鍵と公開鍵を使うことになる。その秘密鍵さえ誰かに教えなければ、個人のデータを知られることはありえない。
電子カルテをこのブロックチェーンで管理することで、医師の労力は大幅に激減される。病院や薬局間のデータのやり取りもなくなるので、トラブルをなくすことができる。
患者はどの病院に行っても、自分の過去の受診歴や投薬歴を担当する医師に知ってもらえるので、セカンドオピニオンをストレスなく得ることができる。アレルギー等があって避けるべき薬も、いちいち伝える必要がなくなる。
アメリカでスタートしている電子カルテ用のブロックチェーンは、まだプロトタイプの段階らしい。だけど医療機関の現状を考えると、これから広がって行くのは確実だろう。
日本でも近いうちにこのような電子カルテの導入が進められると思う。そうなると対応できない開業医等は、必然的に淘汰されていくことになる。でもそれほど思い切った改革をしていかないと、患者と医師のストレスは軽減しないということだよね。
ブロックチェーンについてはその暗号の完璧性ゆえ、これからのデータ管理の主流になっていくような予感がする。個人的にも興味を持っている分野なので、しっかり勉強したいと思っている。
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