SOLA TODAY Vol.198
感情に対するものとして、理性という言葉がある。感情を爆発させていると、「もっと理性的になりなさい」と諭されたりする。
だけど脳科学者の茂木健一郎さんは、著書のなかでこう述べている。「人間が選択肢を前にした場合、判断を下す根拠とするのは理性ではなく感情である」というニュアンスだったと思う。
理性的だと思われるような人でも、実は「好き嫌い」という感情で判断してしまうらしい。つまり人間から感情を取り除くなんて、不可能だということだろう。
しかしそれでは公平を維持できない場合がある。特に人間を法律で裁く裁判官は、感情というものに左右されないよう常に自分を律する必要がある。それは決して簡単なことではない。
そんな問題を解決できるよう、アメリカで試験的に導入されたことがある。
犯罪で起訴された被告人の判決が出るまでのあいだ、保釈をする場合がある。税金を使って拘置所を運営しているわけだから、刑が確定するまで被告を拘留している費用は半端じゃない。
しかし凶悪な人間を野に放てば、再び罪を犯すかもしれない。逃亡や証拠隠滅に関して気を配る必要もある。だけどそんな心配が必要ない人物なら、保釈金を徴収することで拘置所を出てもらうほうがいい。
だが研究機関が調査したところによると、裁判官の判断にミスが多いことが指摘された。ヤバい人間を保釈してしまったり、必要のない人を無駄に拘留して税金を食いつぶしている。
そこで登場したのが人工知能。AIに大量のデータを学習せることで、裁判官に保釈するべきかどうかをアドバイスさせるという実験をした。
この実験が予想を超えるほどの好結果をもたらした。
試験導入によって得られたアルゴリズムを現状に当てはめてみると、ニューヨーク市は拘置所に収監する未決囚を増やさずに、保釈中の被告人による犯罪を25%も削減できる可能性のあることが明確になった。
さらに保釈中の被告人による犯罪発生率を変えずに、留置される未決囚の数を40%以上削減できるとのこと。税金を大きく節約できることになる。ニューヨーク以外の全米都市の40ヶ所でシミュレーションしても、同様の結果が予測された。
これは機械が判断を下す際、感情に左右されていない影響が大きい。裁判官だって人間だ。自分が過去に詐欺の被害にあっていたとしたら、詐欺師に対して感情的になっても仕方ない。
だけど機械による判断を導入することで、現状よりもはるかに高い公平性が実現できて、拘留費用も節約できる。保釈者による再犯防止にも寄与している。
このようなシステムは積極的に導入するべきだと思う。国によって法律はちがっていても、そのあたりを学ぶのはAIの得意技。外国人が犯罪の容疑を受けたときでも、その国の司法機関の人間が持っている国民感情に影響されることが減少すると思う。
「あぁ、日本人か」と思われるだけで、不公平な判断を下されたらたまったものじゃない。このようなAIを国際的に共通する規格にすることで、各国の法律によって公平に裁くことができるはず。ぜひ、日本でも導入して欲しいと思った。
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