毒親と共依存の恐怖
神戸は桜がほぼ満開になった。我が家の近所の桜はこんな感じ。
でも見てのとおり、天気が良くない。ボクが出かけた午前中は朝のうちに小雨が降った程度だけれど、午後からはかなり本降りになっている。
さすがに桜の木の下で、お弁当というわけにはいかない。きっと泣く泣く今日のお花見の予定をあきらめた人は多いと思う。
桜以外にも、本当に花が綺麗な季節になってきた。もうチューリップなんかどこも全開だよね。こんな綺麗な花もあった。
ため息が出るほどの美しさだった。呼びかけられているような気がしたので、写真を撮らせてもらった。この時期は誰もが桜に注目しているけれど、こうして人知れず咲いている花たちもいる。暖かい雨だから、きっとこの花は喜んでいたと思う。
あいにくの雨だったけれど、近所の私立女子中学校は今日が入学式。でも桜雨のなか、笑顔で坂道を登ってくる幸せそうな親子連れであふれていた。
冬のあいだに必死で受験勉強をした結果だから、そりゃ笑顔になるよね。来週の月曜日からは、少し大きめの制服に身を包んだ新入生が、上級生に混じって通学するのだろう。春らしくていいなぁ。
そんな娘を送り出す母親たちは、きっとほこらしい気持ちでこの春を迎えていると思う。ある意味幸せいっぱいの母と娘だけれど、それは見た目だけかも。
本当はどのような親子関係なのかまで、ボクたちにはわからない。そんなことを思わず考えてしまうような小説を読んだ。
『ポイズンドーター・ホーリーマザー』湊かなえ 著という本。
昨年に出版された湊かなえさんの新作で、直木賞にノミネートされた小説。さすがに候補にあがっただけの作品で、めちゃくちゃ面白かった。というかめちゃ怖い……。
怖いといってもオカルト的なものじゃない。人間の深層心理の恐怖。『告白』という代表作を思い起こさせる6つの短編が収められた作品で、どの小説も人間の心の闇がむき出しになって読者に迫ってくる。
それらの短編の主なテーマが、親毒と共依存といっていいと思う。登場人物の関係としては母と娘だけでなく、姉と妹、男と女という図式もある。だけど根底に流れているものは同じ。他人を支配するということ。
この本のオビに書かれたキャッチフレーズが『私はあなたの奴隷じゃない!』だからね。
もちろん最新作なので、ネタバレはしない。でも手にして決して損はしない本だと思う。誰もが抱えているネガティブな感情が、ぐちゃぐちゃに揺さぶられると思う。
そしてこの小説でもっとも怖いと感じたのは、視点が移動すること。最初はある人物の視点で物語が進むから、ひどい母親だとか、ひどい妹だと感じる。
ところが視点が変われば、それがひどい娘や、ひどい姉に変わってしまう。その衝撃たるや半端じゃない。
人間というものが、どれほど一方的なものの見方しかできないかを思い知らされる。ここまで書いて直木賞がとれないなんて信じられにほど、素晴らしい小説だった。
湊かなえさんって、ご本人はどんな人なのだろう? そんなことを真剣に考えてしまほど、人間の心を深く掘り下げた作品だと思う。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。