『キャリー』の影に内助の功
ここのところ自動車の運転は1年に1度のペースになってきた。運転は交通事故の被害者と加害者になるリスクが増すので、それくらいでいいように思っている。
20代のころ通勤は自家用車で、仕事も関西各地の現場まで車を運転する毎日だった。365日で運転をしない日はなかったと思う。だから一生分くらいの運転はすでにしているかもしれない。昨日は320㎞ほど走ったけれど、運転は嫌いじゃないのでさほど苦にならない。
それにしても他人の運転を客観的に見ていると、命知らずの人が多いのに驚く。交通事故死者数が減っているとはいえ、あんな調子では悲しい思いをする人が減りそうにない。やっぱり少しでも早く自動運転車が普及するべきだと思う。
昨日散歩した福井県の名田庄の河川敷に咲いていたタンポポ。事故なく運転できたからこそ、この美しさを楽しむことができる。
車列を縦横無尽に横切って高速道を走り抜けることや、交通違反の取締りにつかまらないことが、うまい運転じゃない。
そこのところをかんちがいしている人がいまだに多い。猛スピードで後ろから追い立てたり、交通違反の取締りをしている警察官に悪態をつく人が、その事実を証明している。
本当にうまい運転は、誰にも迷惑をかけず、無事に自宅へ戻ってくることだと思う。昨日レンタカーを返して自宅へ戻ったとき、うれしそうに走り回っている猫のミューナを見ると心からそう感じた。
さて、とても勉強になる本を読んだ。
『書くことについて』スティーブン・キング著という本。
説明の必要がない、世界的に有名な作家のエッセイ。タイトルとおり小説を書くことについて、著者のノウハウが公開されているので、ボクにとってはめちゃくちゃ勉強になった。
共通することが多く、ボクのやっていることの方向性がズレていないことを確認できた。例えばスティーブンは、小説を書くときにハードロックを大音量で聴きながら書くらしい。
僕も最近意識しているけれど、音楽を大音量で聴いていると、かなり深い集中力を得ることができる。その理由について著者はこう言っている。
「扉を閉める」行為である、と。
これは文字どおり部屋の扉を閉めるという意味だけでなく、音楽を聴くことで他者の意識が入り込まない「閉めた」状態を作ることができる。つまり自分の内面の世界に入り込む状態だと思う。彼が同じ感覚を持っていて、妙にうれしかった。
文章を書く人間には参考になることが多いけれど、この本の前半部分はそうでない人が読んでもかなり面白いと思う。著者の子どものころから、作家としてデビューするまでのことが書かれていて、大笑いしたり、感動したりで楽しかった。
子ども時代の妄想癖や、作家になってからアルコールとドラッグの依存症になった話も興味深かったけれど、もっとも感銘したのがデビュー作の『キャリー』のこと。
まったく作品が売れず、洗濯屋で働いたり、学校の教師でわずかな生活費を稼いでいた。結婚していたのに、月々の支払いにも苦労する状態だった。自宅には出版社からの不採用通知が山ほどたまっている。
そんなとき、『キャリー』の構想を思いついて、4ページほど書いた。ところが気に入らなくて、ゴミ箱に捨ててしまった。映画化された有名なホラーなので、キャリーが女子高生であることを知っている人は多いと思う。
女子高生の気持ちなんてわからないから、途中で放り投げたとのこと。ところが妻がそのゴミ箱の原稿を見つけて、読んだらしい。そして絶対面白いから、続けて書くように詰め寄った。女子高生のことがわからないと答えると、わたしが教える、と妻が言った。
それで完成した『キャリー』は彼の本格的なデビュー作になり、とんでもないベストセラーになる。もし彼の妻がゴミ箱から原稿を引っ張り出さなければ、スティーブン・キングという作家は世に出ていなかったかもしれない。
そうなると『キャリー』だけでなく、『シャイニング』、『スタンド・バイ・ミー』、『ミザリー』、『ショーシャンクの空に』、そして『グリーンマイル』というボクの大好きな映画を、観ることができなかった可能性がある。
さらに面白かったのは、『キャリー』のいくつかの名場面にモデルが存在するということ。物語としてはひとつにまとまっているけれど、いくつものエピソードが組み合わされた結果だった。これも実感としてよくわかる。
才能のある人なので、結果的には作家になったかもしれない。だけど『キャリー』がなければ、その後の名作は生まれていないかも。この本を読んで、ますますスティーブン・キングという作家が好きになった。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする