バルサの作り方
今月の初めにある仕事を始めたけれど、半月ほどで終えるつもりだった。
ところがもうすぐ4月が終わろうとするのに、まだやっている。思っていたよりも大仕事になってしまった。
なんとか今月中に第一段階を終えて、次の段階に進みたい。新作を書こうと思っていたけれど、夏まで手をつけられそうにない。
とりあえず最初の締め切りを今月末に決めたので、今日は映画を観るのを諦めて、朝からずっと仕事をしている。一日中パソコンと向き合っていると、さすがに煮詰まってくる。そんなとき、元気をもらえる本がある。
それは同じように書くことを続けている人の本。僕が大好きな作家が書いたエッセイを読んだ。
『物語ること、生きること』上橋菜穂子 著という本。
上橋さんと言えば、『獣の奏者』や『精霊の守り人』の守り人シリーズで有名な作家。アニメ化もされているので、作品を知っている人は多いと思う。
もちろんボクは、どちらの原作もすべて読んだし、最新の『鹿の王』も読了した。現代の日本の作家で、異世界を舞台にしたファンタジー作家として、上橋さんの右に出る人はいないと思う。作風としては、ボクがもっとも憧れている作家さん。
この本は上橋さんが書いたものではなく、インタビューを瀧晴己さんというライターさんがまとめられたもの。だけど上橋さんの視点で書かれているので、彼女の幼いころのエピソードや、作家として活動するまでのことを知ることができる。
上橋さんなら、ボクにとってバイブルである『指輪物語』を好きだと確信していたが、まさにそのとおりだった。それは彼女が書いている物語を読めばわかる。だからボクは上橋さんの小説が好きなんだろうなぁ。
上橋さんは作家であるだけでなく、文化人類学者としての顔も持たれている。博士号を持っている学者なんだよね。
ボクは以前からなぜ二足のわらじを履いておられるのか知りたかったけれど、この本を読んでその理由がわかった。元々は作家になることが目標で、そのために大学で研究をしようと決意されている。独自の物語世界を追求しているうちに、文化人類学の世界に入られたとのこと。
ボクはどの物語の主人公も好きだけれど、大ファンなのは守り人シリーズに登場するバルサ。女性でありながら短槍の使い手で、めちゃくちゃ強くてかっこいい。
このエッセイを読んで、バルサがどうしてできたのかわかった。身体が弱かった上橋さんだけれど、心のなかに常に強い女性が存在している。講演会を依頼されて話をすると、次の日には発熱してしまうほどの人見知りらしい。
だけど大学院時代には、オーストラリアのアボリジニを取材するために、体当たり的な行動をされている。さらに古武道にも通じておられる。上橋さんの内面には、バルサがずっと存在していたのだと思う。
物語の主人公というのは著者そのものではないけれど、投影されているのは当然。あのかっこいいバルサは、上橋さんの一部でもあるのだと思う。そこに物語が入り込むことで、バルサは独自に成長を遂げていく。結果的に言えば、バルサを作っているのは、著者ではなくバルサ自身なんだと思う。
物語の登場人物は、著者に対して自己主張する。あらかじめ考えたプロットなど無視して、こんな人間でありたいと訴えてくる。だからこそ物語を書いていて面白いし、読者も楽しめるのだと思う。
バルサというキャラは、上橋さんのエッセンスを彼女の内命に持ちつつ、バルサ自身が求めてきた結果だと思う。そんなキャラを書きたい、と切実に思った。とても勉強になって、そして元気が出る本だった。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
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