超能力3連発!
体外離脱や明晰夢を常時経験していると、超能力体験はお手のもの。壁をすり抜けるのは楽勝だし、空を飛ぶこともできる。遠く離れた場所でも一瞬で移動できるし、宇宙遊泳だって可能。念力で物を動かしたり、周囲の景色をすべて変更したり、雨や雪を降らすこともできる。
だけど現実世界に戻ると、ただの凡人。買い物に行って両手に重い荷物を抱えていても、一歩一歩坂道を登るしかない。雨が降ったら傘をさすしかないし、どれだけ暑くても汗をかきかき歩くだけ。
小説を書いていても、パッパッと一気にできるわけじゃない。一文字ずつ入力して12万字の物語をつむいでいくしない。天才と呼ばれる人は、きっとある部分で超能力的にできることがあるんだろうね。ボクのような凡人は地道に進むしかない。
だけど本当に超能力が現実世界で使えたら便利だろうか?
便利だとも言えるし、そうでもないかもしれない。そんなことを考えさせられる小説を読んだ。
『鳩笛草』宮部みゆき 著という本。
3つの中編が収められた書籍。その主人公のすべてが超能力を使う。この本を読んだきっかけは、宮部さんの『クロスファイア』という作品。その物語の主人公である青木淳子は『パイロキネシス』という能力を持っている。念力放火能力というもの。
その淳子が登場する『クロスファイア』の前にあたる小説が、この本に収められている。どうしても淳子の過去が知りたくで、この本を手にした。
宮部さんのデビュー作は、やはり超能力者が登場したはず。宮部さんといえば推理小説作家のイメージが強いけれど、実はこの作品のようにファンタジーやSF世界の作品を多く残している。さらに時代小説も数多く書かれているので、ボクは作家として心から尊敬している。
その3つを簡単に紹介しておこう。
『朽ちてゆくまで』
主人公は20代の智子。両親を子供のころに交通事故で亡くし、祖母とふたり暮らしだった。ところが祖母も亡くなり、相続税対策で自宅を売却することになる。その整理の途中、大量のビデオテープが出てくる。
そこには2歳から両親が亡くなるまでの智子の記憶が残されていた。彼女は予知能力者だった。両親はそのことに気づき、彼女が語るたびにビデオに撮って記録に残していた。その予知のなかには1985年の日航ジャンボ機墜落事故等もある。
だが両親が死んだときの交通事故で智子は記憶の一部をなくしていて、自分の能力の存在を知らなかった。調査をするうちにその事故は、特殊な能力を持った娘の将来を悲観した両親が、無理心中をしたのではないかという事実が出てくる。
もしかすると両親を死に追いやったのは、自分ではないか? 両親の死の真実を探るため、智子はあることを決意する。
『燔祭』
これは先ほど書いた青木淳子の物語。淳子の会社の同僚である一樹の妹は高校生。その妹が殺される。それは殺人を楽しむ不良少年たちの仕業で、証拠がなくて逮捕することができない。おまけに容疑者は未成年なので、少年法という壁がある。
妹の仇を討つために犯人の少年たちを殺したいと思っている一樹に、淳子が接触する。「わたしなら、彼らを殺すことができる」と言って、パイロキネシスの能力を見せる。
淳子の力を借りるつもりだった一樹だったが、その能力が恐ろしくなり殺人を思いどまる。だが淳子はたったひとりでも、犯人たちを殺すつもりだった。
「新聞を注意して見てください」と言って、淳子は一樹の元を去る。そしてある日、身元不明の4人の焼死体が見つかる。真実を求める一樹は、淳子を探そうとする。
『鳩笛草』
主人公は貴子という30代の女性刑事。彼女の能力は、他人の身体や物に触れるだけで、その人物の心のなかがわかってしまうという、リーディング能力。その能力を使うことで実績を上げ、刑事にまで昇格した。
だが能力が衰えつつあることがわかる。もし能力が消えてしまえば、自分はただの凡人になり、捜査に貢献することができない。能力の衰えを教えるかのように、彼女を正体不明の体調不良が襲いかかる。脳の一部が麻痺して、脳卒中のように意識を失ってしまう。
ところがそんなとき、11歳の少女が身代金目的で誘拐される。自分の能力が消えてしまう前に、犯人の心を知ろうした貴子は、決死の思いで事件現場に乗り込んでいく。そしてそこで誘拐に関する、衝撃的な事実を知る。果たして貴子は犯人に到達できるのだろうか?
というような3つの物語。気になる人のために、ネタバレはしないでおこう。
超能力があれが人間はどうなるのか? 自分なりの答えが見つかるかもしれないよ。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。