SOLA TODAY Vol.329
日本の経済は成熟期を過ぎ、東アジアでは『安い国』として認知されつつある。それは言い方を変えれば、大勢の観光客が訪れるということでもある。
なぜなら物価が安く、治安は比較的いいし、歴史的な遺産も多い。ボクの出身地である京都でも、そして今住んでいる神戸でも、市内の中心地に出ると大勢の外国人観光客を見かける。先日の祇園祭のときの京都などは、かなり大勢の人が集まっていただろう。
そんな有名な観光地に、ある悩みが発生しているらしい。
スペインのバルセロナといえば、誰もが一度は行ってみたいと思う場所。美術品のような建築物を見るだけでも、数日はかかりそう。現代でも観光客の勢いは衰えず、ガイドをつれたツアー客が行列をなしているらしい。
ところが地元では大きな変化が起きている。有名な観光地から、長年住んでいた地元住民が消えて行きつつあるとのこと。観光客の増加に伴って投資家による建物の売買が盛んに行われるようになり、立ち退きを迫られる住民が増えている。
でも同じ地域で住宅を借りようとすると、すでに手の出ない金額まで高騰している。だから泣く泣く郊外に移住せざるを得ず、古くからこの地域に住んでいた人は「難民になった気分だ」と嘆いている。
バルセロナの旧市街にあたるゴシック地区では、2006年には27,470人だった人口が、2015年には15,624人まで減った。現在の人口の約6割は、観光客や短期滞在の流動的な住民になってしまった。
Airbnbのような民泊仲介サービスが、その現象に拍車をかけているらしい。地元住民を追い出した空き家に、観光客等を宿泊させている。その町の歴史を支えてきた人たちが姿を消し、歴史ある町の中心が空洞になりつつある。
経済成長が見込めない成熟した国家にとって、観光客は重要な資金源になる。だから行政側もこの傾向を推し進める。都市の中心部は金を生み出すための仕掛けとみなされて、労働者階級の人たちが郊外へ押しやられている。
フランスのパリでも同じことが起きていて、観光客向けへの賃貸住宅への乗り換えを進めたことで、過去5年間で2万戸の住宅物件が消えた。家賃は高騰して地元住民は住めなくなり、パリの人口は減っているらしい。
学者によっては、将来的に「住む人のいない都市や死んだ地区」が生まれるのではと懸念している人もいる。観光客とその金を吸い取ろうとする人だけの街になってしまうのかもしれない。
これは日本も他人事ではないと思う。大きな経済成長を望むことができず、人口構成は逆ピラミッドの高齢化社会になってしまった。だからこそ世界的に有名な観光地は外国人を必死で集めようとする。東京五輪はそのために誘致されたようなものだろう。
中国は北京五輪のとき、貧困層が住む地域を一掃している。強制的に地元住民を追い出し、その場しのぎの街を作り上げた。日本においてそこまでのことが起きることはないだろうけれど、バルセロナの出来事は対岸の火事ではない。
文化というものは、その街に住む人が創り、守ってきたものだと思う。その原則を忘れてしまうと、新しい文化が育つ余地がなくなってしまう。歴史ある観光地を見ているつもりで、実は蝉の抜け殻だったということになりかねない。『今』生きている街を見てもらうことが、本当の観光だと思うのだけれどね。
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