SOLA TODAY Vol.370
何か困りごとが起きたとき、最近はネットでほぼ解決策を見つけることができる。例えばパソコンに関するトラブルのようなものであれば、ちょっと検索すればいくつも対策が見つかるし、図解付きでかなりわかりやすい。
ところが17年前にネット世界に触れるようになったころは、想定外のトラブルで困り果てることがあった。そんなときたまに利用したのが電話サポート。だけど正直に言って、電話サポートでトラブルが解消した記憶がない。
結局は電話で訊かなければいけないようなことは、簡単に解決策が見つからないことが多い。でもこちらとしては最後の手段で電話をかけているわけだから、対応が曖昧だとイライラしてくる。そして相手の言葉尻をとらえて、厳しい口調で迫ることもあった。今から思えば恥ずかしい。
ところが今でもコールセンターというのは、そういうトラブルが絶えないらしい。そこで韓国のある企業が対策に乗り出した。
コールセンターで働く人に罵声を浴びせる「モンスター客」。彼らの態度を変えた秘策とは。
コールセンターに電話をかけて最初にイラっとするのは、すぐに電話がつながらないこと。電話がつながっているのに延々と「しばらくお待ちください」というありきたりなアナウンスを聴かされていると、ますます苛立ってくる。
そんな待ち時間に、この企業はあることを行なった。
単調な呼び出し音やおざなりなアナウンスではなく、「オペレーターの家族の声」を聴かせるようにしたらしい。ヤラセではなく、本当の家族に録音を依頼して、そのオペレーターが担当する待ち時間には、家族の声が流れるようになっている。例えばこんな感じ。
「僕の大好きな、愛おしい妻が、すぐにあなたの問題の解決を手助けします。」
「私が世界で一番大好きなママが、すぐにあなたをお助けします。もう少しだけお待ちください。」
「私の、親切で勤勉な娘が、もう少しで対応させていただきます。」
これは面白い! とてもいい発想だと思う。
電話をかける側からすれば、相手は企業のいち社員でしかない。腹わたが煮え繰り返っているようなときなら、そのオペレーターが個人的に何かをしたわけじゃないのに、つい怒りをぶつけてしまう。
だけど電話に出る人が、誰かの妻であり、母であり、娘であることを自覚すると、対応が変化するだろうと思う。一人の人間として意識することで、礼節を保とうとするだろう。
本来なら「モンスター・カスタマー」になるはずだった人を、この音声を聴かせることで普通の人に変えてしまうかもしれない。事実このシステムを導入してから、オペレーターのストレスは54.2%も減少したとのこと。人間って、情に弱いところがあるからね。
ボクが30歳のころ、学習塾の営業をしていた。そのときの上司に聞いたことがあるけれど、名古屋の本社ではテレアポを取っていた。知り合いでもないのに他人の家に電話をかけるわけだから、あたりがキツイのは想像できる。
そのストレスたるや尋常ではないらしく、男性社員が電話の横で一升瓶を抱えながらひたすら受話器を耳に当てていたらしい。とてもシラフではやってられないのだろう。
まぁそのうち、オペレーターの仕事もAIに奪われるだろう。AIならストレスの心配はいらないからね。それまではこうしたシステムを導入することで、社員だけでなく顧客に対しても余計なストレスをかけないことは大切だと思う。人間の心理をうまく生かした、素敵な対応だと感じた。
『ゼロの物語』改訂版の配信サイトについては、こちらに一覧を設けています。登録されている電子書籍店でお求めください。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。