多重債務の怖さ
天気予報どおり、神戸は朝からずっと雨。まだ秋雨前線の雨なので、台風本体の雨はこれから明日にかけてやってくるだろう。おそらく明日の午後には、大荒れの天気になると思われる。
やはり4日分の買い物をしておいて正解。火曜日の午前中まで、引きこもりが決定だね。家にいられる分、しっかり仕事をしよう。録画した映画も貯まっているし、分厚い本も図書館で借りてある。とにかく大量にインプットして、大量にアウトプットするのみ。
ずっと気になることがあって集中が途切れがちになりやすい。だけど新しい小説に集中することで、かなり救われている。そうして常に小説のことを心のどこかで考えていることで、予想もしないヒラメキがやってくるように感じている。
ボクが敬愛する宮部みゆきさんという作家は、小説を書くときに『何かが降りてくる」と表現されていた。ボクがいうのはおこがましいし、宮部さんに失礼だけれど、同じように感じている。
そしてその「降りてくる」ものは、待っていても来るものじゃない。書き続けることで、ようやくやって来る。これはボクの実感としてわかる。降りて来るのを待って何もしないと、そのままで終わってしまう。たとえ一歩でも前に進むことで、ようやくヒラメキがやって来る。だからこそ、面白いのだと思う。
そんな宮部さんが、「何かが降りてきた」と感じて書かれた小説を読んだ。
『火車』宮部みゆき 著という本。直木賞にノミネートされ、山本周五郎賞を受賞した、宮部さんの代表作のひとつ。新しい作品を中心にして読んでいたので、ようやくこの作品に出会えた。
出版されたのが1992年だから、バブルがはじけるころだよね。その当時の世相を反映していて、多重債務が作品のテーマになっている。とても緻密に計算されて書かれているので、経済小説を読んでいるような気分だった。
その時期に税理士事務所で働いてたボクにとって、当時の状況がよくわかる。どんな人でも多重債務を抱えたいなどと思わない。ところが気がついたときには泥沼にはまっているのが、この多重債務の怖さ。
今でこそ法律が改正されて、過去の過払金利息を回収する弁護士等のCMが流れているけれど、このころは追い込まれた末に、最悪の状況を迎えた人は数知れないだろう。
この小説の面白いところは、まずは事件を追う刑事。本間という刑事は、ある事件の捜査中に銃で足を撃たれ休職中だった。だから警察の証明である手帳も、銃も携帯できない。その状況で妻の従兄弟の息子の願いを聞き入れ、失踪した婚約者の捜索を引き受ける。
この休職しているというのが最高! 刑事としての利点を活かせないから、とても苦労する。まさにこれはヒラメキで、この物語における独特の世界観を形成する大きな要因になっている。
そしてもうひとつ「何かが降りてきた」と感じるのは、犯人の女性が実際に物語に登場するのは、最後の数ページだけだということ。これはすごいことだよね!
犯人は自分と同じ年代の女性を殺すことで、他人の戸籍を奪い取っている。名前もわかっているけれど、犯人の行動は他人の口から発せられるものばかり。だから気になって、最後までページを繰る手が止まらなくなる。見事に宮部マジックにはまってしまった。
とにもかくにも、多重債務は怖いということ。時代は変わっても、人間の心理の奥深くに潜むものは同じだと思う。お金というものに対する概念が変わらない限り、同じことが起きるのだろう。とても素晴らしく、勉強になった小説だった。
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