心の中の場所は、完全な平和
阪神タイガースのファンにとって、なんとも寝覚めの悪い今日の朝。9月になってからも必死で広島カープのマジックを消滅させようとしていたけれど、ついに昨日、カープが優勝を決めた。それも甲子園で胴上げ……。
なんとか2位について頑張ったけれど、タイガースはカープに勝てなかったなぁ。マジでカープは強いよね。ここ数年のタイガースは若手が育ってきたけれど、カープはそれ以上に若手が伸びつつ、ベテランがいい仕事をしている。37年ぶりのセリーグ連覇も実力だろう。仕方ない。
できることならプレーオフで一矢報いて、タイガースにはカープの日本シリーズ進出を阻止してほしい。できればそのまま日本一になってくれたら、かなりスッキリするんだけれどな。
結局、今年も甲子園のカクテルライトを自宅のバルコニーから見るだけで、一度も球場に行けなかった。球場というのは独特の雰囲気があって、それぞれのチームのファンの応援が、もろに激突するので楽しい。もちろんホームとアウェイの差はあるけれどね。
そんな敵対視も、スポーツの世界だから楽しめる。だけどこれが現実社会の出来事で分裂すると、そこには悲劇が生まれる。なかでも根が深いのが、人種差別問題。そんな問題について、正面から向き合った素晴らしい映画を観た。
『プレイス・イン・ザ・ハート』という1984年のアメリカ映画。僕の大好きな女優さんであるサリー・フィールドが、この映画でアカデミー主演女優賞を受賞している名作。一度観たことがあるけれど、詳細を忘れているので再見した。
舞台は1935年のアメリカはテキサスの小さな町。ちょうど世界恐慌のまっただ中で、誰もが貧困にあえいでいる。そしてまだ人種差別がひどい時代であり、特にこの地域は激しい差別が常態化している。その悲しい実態を、真っ正面から取り上げている。
サリー・フィールドが演じるエドナは普通の主婦。だが夫の保安官は酔っ払った黒人の少年に撃ち殺されてしまう。未亡人になり二人の子供を抱えて途方に暮れれたところに、追い打ちをかけられる。住宅ローンを払わないと、家を売却しなければいけない。
そこでたまたま出会った流れ者のダニー・グローヴァーが演じる黒人のモーゼスの力を借りて、綿花の栽培に挑戦する。さらに戦争で視力を失ったウィルという男を下宿人として銀行に押しつけられるが、結果的にエドナを助けてくれることになる。そのウィルを、これまた名優である、ジョン・マルコヴィッチが演じている。
彼らの協力があって、エドナは自宅を売らずにすみ、なんとか生計を維持していけるようになる。感動する場面が続く、ヒューマンドラマの傑作。だけど先ほど書いたように、人種差別という問題がこの映画に影をもたらす。
エドナが住宅ローンを返せたのは、モーゼスの知恵と行動力のおかげ。だけどそれを心よく思わない白人がいる。この町には白人至上主義者であるKKK.に属する人間が多数いる。ラストではモーゼスが暴行を受け、仕方なくエドナの元を去ることで終わる。
人間の世の中は、こういうものだよ、とこの映画の監督が叫んでいるのが伝わってくる。差別だけでなく、不況による貧困、竜巻という自然災害にも、正面から向き合っている。だからこそ、心が震えるほど感動する。本当に素晴らしい映画だと思う。
そしてラストがいい。教会のシーンで終わる。そこにはKKKの人たちに混じって、登場人物たちが腰をおろしている。エドナの一家だけでなく、そのとなりには町を出たはずのモーゼスがいる。いやそれどころか、殺されたエドナの夫や、その犯人の少年も笑顔で腰かけている。
そうそこは『心の中の場所』だった。つまり『Places in the Heart』ということ。そこには貧困も差別も暴力もない。死さえ存在しない。誰もが笑顔で教会のミサに参加している。この数分のシーンを演出するために、それまでの物語があったことがわかる。
ボクは涙が止まらなかった。そこにあるのは、完全なる平和だったから。
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