破獄
久しぶりに残暑の厳しい神戸。外を歩いていると、明らかに夏を感じた。まだツクツクボウシも、数は少ないとはいえ頑張って鳴き声を聞かせてくれている。
それでも今週の後半には一気に秋が進むらしいから、蝉の声も来年の夏までお預けになるんだろう。どことなくさびしいけれど、秋がやってくるうれしさも同時に感じる。もう一週間先は、10月だもんね。
暑いといえば、政治が熱くなってきた。報道されていたとおり、安倍首相が28日の衆議院解散を正式に表明した。来月は総選挙一色で、熱い舌戦が繰り広げられるのだろう。
その解散宣言に合わせて、小池東京都知事も『希望の党』という新党の代表につくことを発表した。民進党が沈没寸前だから、かなり勢力を伸ばすかもしれない。とにかく野党は苦戦するだろうな。
夏真っ盛りのころには森友学園や加計学園問題について無駄な騒ぎを起こし、民意と問うために解散を迫っていた野党。ところがいざ安倍首相が解散を表明すると、大義名分がないと騒ぎ出す。この段階で終わってるわ。
衆議院解散をするのは首相の正当な権利。政局の安定運営を目指すために解散をすることは、ちっとも不思議じゃない。代表が変わったばかりの民進党があたふたしているうちに攻めるのは、戦略として当然だと思うけれどね。さて、民意はどう出るのだろう?
さて、今年の4月にドラマ化されていたらしいけれど、その事実をまったく知らずに原作を読んだ。あまりに面白くて、時間を忘れて夢中になってしまった小説だった。
『破獄』吉村昭 著という本。
これは白鳥由栄という実在の人物のことを書いた小説。物語では佐久間清太郎という名に変えられているが、ほぼ実話らしい。だとしたらすごすぎる。なぜならこの人物は、「昭和の脱獄王」と呼ばれているから。
昭和11年から22年にかけて、4回も刑務所の脱獄に成功している。青森刑務所、秋田刑務所、網走刑務所、そして札幌刑務所の4つ。特に当時は脱獄不可能と言われていた網走刑務所から逃げたことで、日本中の刑務官を震え上がらせている。
白鳥という人は、人並み外れた体力を持っていた。1日100キロメートルの距離を走り続けることができる。手錠の鎖を引きちぎるなんて、まるでターミネーターのよう。さらに関節を自由に外せるので普通の手錠は意味がないし、頭が通ればどこでも抜け出すことができる。
それだけでなく頭が良くて、根気強い。ナットで締められた手錠を外すために、毎日少しずつ味噌汁をこぼして塩分でナットを錆びさせた。それで外してしまったんだからね。
さらに心理的な面でも、刑務官を圧倒していた。担当する刑務官の人間性を見抜き、自分の都合のいいように陽動する。そのあたりの見事な心理戦は、小説を読むとよくわかる。その見事なやり口に、思わずうなってしまった。
結果的に府中刑務所の所長との心の交流の結果、白鳥は刑期を終えて出所し、72歳という天寿をまっとうしている。おそれいった、というしかない。この所長との心の交流も、この小説の見どころになっている。
だけどこの物語でもっとも勉強になったのは、この当時の刑務所事情。まさに太平洋戦争の真っ最中で、戦争突入、敗戦、アメリカによる統治、そしてその後の経済復興という、日本の近代史の縮図になっている。
そんな時代の流れに翻弄された、刑務所の所長や刑務官たちの苦労と努力が、心に切々と訴えかけてくる物語。脱獄王の物語なんだけれど、本当の主人公はこの時代の刑務所を必死で守ってきた人たちだと思う。本当に素晴らしい小説だった。おすすめだよ!
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