SOLA TODAY Vol.406
物を売るための方法は、商品によってやり方がちがうのは当然。そしてそれぞれの対象に対して、伝統的に確立されたノウハウが共有されている。営業マンによる個人差はあっても、その商品が有している販売システムの域を出ることはない。
例えば小説の場合なら、最初に判断するのは出版社の編集者になる。新人であれベテランであれ、編集者の人が企画を立ち上げ、会議にかけることで著者に執筆が依頼される。その最初の判断が、大きくものを言う。
そして完成した小説は、出版社の営業だけではなく、書店や著者による宣伝活動に支えられて世に出される。著者の知名度や前評判が軌道に乗れば、予約段階で大幅な増刷が決まることもある。又吉直樹さんの『火花』のように、そこから記録的なベストセラーが現れたりする。
成功しても失敗しても、とにかく編集者の経験に基づいた『目』が起点になっているのは事実。ところがそんな出版の世界に、まったく新しいノウハウが殴り込みをかけてきた。
その新しい仕組みを生み出したのは、ドイツのベルリンに本社がある出版社。この新しい仕組みによって出版された37冊の本のうち、20冊がAmazonのトップ100にランクインしている。ヒットの確率は、65%というとんでもない高い数字。
売り出す作品を選ぶのはコンピュータ。この会社では、最初に小説を発表できるプラットフォームを作った。大勢の人に参加してもらって、小説を投稿してもらう必要があるから。
日本でも同じように小説投稿サイトがいくつかある。だけどとそこから先がちがう。特殊なアルゴリズムをプログラムすることで、コンピュータによって売れる可能性の高い小説を選び出している。それは人間の行動分析に基づくものらしい。
例えばある小説を、誰かが夜を徹して読んでいたとする。それらの動きをコンピュータが察知することで、この会社のスタッフがマーケティング支援をして、Amazonへ売り込む。そうしてベストセラーを生み出しているらしい。
このプラットフォームには4万5000人以上の作家が参加していて、読者は100万人に達している。これだけの素材がそろっていたら、人間の目でチェックするのは難しい。売れるはずの作品を埋もれさせてしまうことになる。
でもこのシステムを利用することで、できる限り取りこぼしをなくし、ベストセラーを生み出していくことに成功している。なかなか面白いよね。
いずれ日本でもこんな時代が来るのかもしれない。読者は常に『今』の時代に生きる人たちなので、必然的に売れ筋が明確になる。あえてリサーチをする必要がない。100万人も読者がいたら、特定の作家に対して有利に働くよう、データを偽装するのも難しいだろう。
この仕組みが浸透してきたら、芥川賞や直木賞等の名のある文学賞が、コンピュータによって選ばれる時代が来るかもしれない。著名な作家のお墨付きはないけれど、ある意味公平でいいのかもしれないね。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
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