新規開拓は楽し
台風に備えて食料を買い込んだので、土曜日から外出していない。それでも毎日3回食事を取っているので、今夜でその備蓄した食料もほぼ無くなる。明日は4日ぶりの買い物。
買い物に出るとどうしても半日は時間を使う。だからこの4日間、その時間を仕事に割り振ることができた。新しい小説の第1回目の推敲中だけれど、おかげで半分以上は進んだ。最終的に4回は推敲するので、まだまだ先は長いけれどね。
でも明日は久しぶりに外出するのも楽しみ。週間予報を見ている晴れマークなので、明日は傘を持たずに歩けそう。ここ2週間くらいは傘なしで歩けなかったから、まじでうれしい。
さて、世の中に小説なんて数え切れないほどある。一生のあいだに縁のある作家なんて、ほんの一部だけだろう。だって生きている人だけでなく、亡くなった作家も含めたら、作品を読める作家は限られている。
だけどせっかくの人生だから、できる限り多くの作家に触れたい。だからその機会は逃さないようにしている。先日ブログにも書いたけれど、アメリカの文芸雑誌のインタビュー記事を集めた著作を読んだ。
そのなかで、一人だけとっても気になる作家がいた。名前はアイザック・B・シンガー。1978年にノーベル文学賞を受賞しているが、1991年に88歳で亡くなっている。
この作家のインタビューを読んだとき、めちゃくちゃ好奇心を刺激された。アメリカで作家活動をしているけれど、出身はポーランドのユダヤ人。本格的にドイツナチスの侵攻が始まる以前の1935年にポーランドを脱し、モスクワ経由でアメリカに入国した。そして1943年にはアメリカの市民権を取得している。
ユダヤ人というのは流浪の民だった。ドイツで暮らすユダヤ人もいれば、彼のようにポーランドに拠点をもつユダヤ人もいた。その地域のユダヤ人には、イディッシュ語という特殊な言語が使われている。
彼はアメリカに渡ってからも、このイディッシュ語で小説を書いた。英語も使えたけれど、この言語でなければ自分を表現できなかったのだろう。だから英語で翻訳されたうえ、さらに多くの言葉に翻訳されて世界中に人に読まれている。
ということでとても興味深い人物だったので、さっそく読んで見た。
『メシュガー』アイザック・B・シンガー著という小説。
メシュガーという言葉は、イディッシュ語で「気が狂った、ばかな、正気を失った」という意味になる。
ボクが直感で受け取っていたとおり、めちゃくちゃフィーリングの合う作家だった。この作品は1952年のニューヨークが舞台で、第二次世界大戦後のアメリカに、難民として入国してきたポーランド出身のユダヤ人たちが描かれている。
彼らの多くは、家族をドイツナチスに殺されている。特に若い女性は悲惨で、自分の身体を性的な犠牲にしなければ、生き延びで脱出することができなかった。この物語の主人公であるアーロンは、著者自身をモデルとしたもの。だから彼の想いがそのまま主人公に託されている。
アーロンのセリフが印象に残っている。「神の存在は信じるけれど、神の慈悲は信じない」というような内容。その言葉の背景には、ヨーロッパのユダヤ人に起きた悲劇がある。
そんな重いテーマではあるけれど、読み進めると心にスッと入ってくる。なぜだかわからないけれど、おそらくボクの魂と共鳴しやすいものを著者は持っているのだろうと思う。あるいはノーベル文学賞を受賞したという、彼の実力に圧倒されたのかもしれない。
小説は面白くなければいけない、という彼のインタビューどおりの内容だった。登場人物のキャラに惹きつけられ、まるでその時代に降り立ったような気持ちになった。そしてハッピーエンドで収束しそうなラストのたった1行で、その世界がひっくり返っている。驚くしかない結末だった。
ぼくとフィーリングが合うのは、著者がスピリチュアルなことを題材に取り入れているからだと思う。インタビューでも、小説にそうしたことは欠かせないと述べておられた。新規開拓の気分で読んだけれど、もしかすると運命的な出会いをしたのかもしれない。
こうなると他の作品も読みたくなる。できる限り、この著者の世界に触れてみようと思う。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。