SOLA TODAY Vol.443
ネット社会において、成りすましがなくなることはないだろう。匿名でなくても、架空の名前で書き込めば本当の姿はわからない。女性専門の掲示板であるガールズチャンネルだって、女性に成りすました男性が書き込んでいるはず。
最近ネットで話題になっていたので知っている人は多いだろうが、アメリカでかなり驚く成りすましが発覚した。
少女が13歳から8年間、架空の妻子持ちMLBライターになりすましていたことが発覚
8年間メジャーリーグのライターとして人気のあったライアン・シュルツという妻子持ちの中年男性。この人物が、21歳の女性であることが発覚した。
その女性はベッカ・シュルツ。プロ野球のライターになりたかったベッカは、13歳のときにある決意をする。中年の男性になりすますことで、野球メディアやブログに投稿を続けた。やがて人気が出て、ライターとしての地位を確立する。
なぜ身元がバレたかというと、架空の存在であるライアンのハラスメント。ネット上で彼からハラスメントを受けたという女性が何人も現れ、この男のプライベートを調査したある女性が真実を知ってしまったらしい。それでライアンが21歳のベッカであることが公表された。
ベッカによると、精神的にイライラしたとき、ライアンに成りすますことでハラスメントを行っていたとのこと。彼女は謝罪して、ツイッターのアカウントを削除している。もしハラスメントをやらなければ、いつまでもバレなかったかもしれない。
これはベッカに才能があったからできたことだろう。文章というのは書き方次第で相手の印象を操作することができる。男性の作家が女性の一人称で小説を書けば、ペンネームによっては性別はわからないだろう。ボクもブログを始めたころ、写真を公開せず、今と文体がちがったので女性だと思われていたことがあった。
このベッカという女性は、想像力豊かな人なんだろうな。徹底的に研究して、中年男性を演じていたのだと思う。その結果、女性へのハラスメントになったというのが面白い。徹底しているよね。
だけどよく考えたら、成りすましをしていない人間なんていない。自宅から一歩外に出れば、学校用や職場用の仮面を誰もがつける。個人のアイデンティティーは同じだとしても、ある程度の演技をしているはず。常に自分の本性をさらけ出していたら、社会生活が困難になるからね。
その発想をもっと深めていけば、全人類が強烈な『成りすまし』状態であることがわかる。
『自我』ほど、強烈な『成りすまし』はないだろう。恐ろしいことに、成りすましであることに誰も気づいていない。自分が自分であることの根拠が、揺るぎないものだと思い込んでいる。
自分がどれほど正直なのかを豪語する人でも、国籍や性別を語っている時点でアウト。『本当の自分』にとっては、やはり成りすましでしかない。俳優だということを忘れて舞台に立っているのと同じ。どれだけ必死で自分を主張しても、その役柄について述べているだけのこと。
それにしてもアメリカの野球ファンは驚いただろうね。ベッカはライターとして仕事を続けることができるのかな? 中年男性という仮面が取れたことで、もうバイアスはかからない。実力が問われる世界に突入するわけだから、これからが才能の見せどころだろうなぁ。
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