押し付けられた罪悪感の恐怖
今日はマジに寒い。おそらくこの冬一番の寒さだったのではないだろうか。ダウンジャケットを着たものの、その下は厚手のシャツ。歩き出してしばらくは、セーターにすれば良かったと思ったほどの寒さだった。そんな冬の訪れを、植物たちも教えてくれる。
近所の公園にあるメタセコイアの葉が赤茶けて、今にも散りそうな雰囲気だった。ボクの大好きなこの木は、冬になると一斉に葉を落とす。その豪快な潔さが気に入っている。葉を落とすことで木にかかる負担を減らして、静かに冬を越すんだろうね。そして春になると、見事な若葉をつける。
四季を通して植物の営みを観察していると、彼らの生命力を維持している『意図』が、自然の摂理に沿ってスムーズに流れているのがわかる。おそらくそれは人間も同じなんだろうけれど、スムーズに人生を過ごしている人は少ない。
人間というのは自分の肉体を流れるそうした『意図』に、わざと反して生きているように思うことがある。素直に生きればいいのに、ああだこうだと想いがめぐり、思ったように進めない。そんな自然な『生』の流れを止めてしまうもののひとつに、『罪悪感』というものがある。
人間の罪悪感がもたらす恐怖を、徹底的に思い知らせされた小説を読んだ。
『贖罪』湊かなえ 著という小説。
ボクがこれまで読んだ湊さんの作品で、もっとも印象に残っているのはデビュー作の『告白』というもの。いまだにこの作品を思い出すと、人間の心の闇が思い浮かんで恐怖心を抱いてしまう。
ところがこの『贖罪』という小説は、もしかすると『告白』以上に心を揺さぶられたかもしれない。湊さんの小説を読んでいると、心がザワザワして落ち着きがなくなってしまう。誰かがどこかで、自分の心をのぞいているような錯覚を覚えてしまう。この小説もそんな想いが最後までつきまとった。
ある田舎町で、小学校4年生の女の子がレイプされて殺害される。夏休み中の校内で遊んでいたのは、紗英、真紀、晶子、由佳、そしてエミリの5人。プール更衣室の換気扇工事をするという作業服の男が近づいてきて、脚立を忘れたから誰か一人だけ手伝って欲しいとのこと。
そこで選ばれたのはエミリだった。他の4人はそのまま遊びを続けていて、すっかりエミリのことを忘れていた。そして午後6時を知らせる音楽を耳にして、ようやくエミリを探す。更衣室にやってくると、エミリが死体で発見された。
その後4人が中学校1年生になったとき、東京に戻るエミリの母親である麻子に呼び出される。
「エミリが死んだのはあなたたちの責任だ。友達を放っておいたうえに、犯人の顔さえ覚えていない。もしあなたちが時効までに犯人を見つけるか、それに見合う償いをしなければ、わたしはあなたたちに復讐する」と脅した。
13歳の少女が大人にそんなことを言われたらどうなるか? 彼女たちは押し付けられた罪悪感に苦しむことになる。そして成人した彼女たちは、その呪縛から逃れることができない。
なんと驚くことに4人が4人とも、結果的に殺人を犯してしまう。なんて恐ろしい物語だろう。娘を亡くしたショックで麻子はつい感情的になって、4人を脅してしまっただけだった。だから成人した彼女たちに謝罪しようとしたが、かえって火に油を注ぐことになる。
罪を重ねながらも、4人の女性たちはエミリを殺した犯人につながる情報を麻子に伝える。そしてラストで真犯人がわかる。それは麻子が結婚前に巻いた種が理由だった。娘は偶然に襲われたのではなく、麻子に対する復讐が目的だった
結局、誰よりも強い罪悪感に苦しんでいたのは、エミリの母親だったということ。そして真犯人にもかなりショックを受ける。読んでいない人がいたら申しわけないから書かないけれど、その犯人の心を思うと胸がキリキリと痛む。
とにかくすごい小説だった。『告白』と同じ形式で書かれているけれど、心に強く残る作品だった。読んでいない人は、ぜひこの恐怖を味わってほしい。
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