死刑制度のリアルな恐怖
今日のブログはいきなり本題に入る。偶然にも、ボクが書こうと思っていた内容に関する記事を今日のネットニュースで見たから。
『名張毒ブドウ酒事件 再審請求棄却を決定』という内容。
この事件については詳しく知らないし、述べようと思っているわけじゃない。ただ死刑判決の再審請求は、そう簡単に認められないということを知って欲しいと思った。再審決定=無罪ということになる。なぜなら死刑の判決をくつがえすほどの事実が新たに見つかったことになるので、検察が無罪判決に控訴しても棄却されるのが見込まれるから。
だから再審決定が出る前の非公式な審理で、検察は徹底して請求を叩き潰そうとする。言い方は過激かもしれないけれど、まさに叩き潰すという表現が的確だと思えるほと必死になる。だって死刑という判断を裁判所が下した以上、それをひっくり返されることは司法の信用が崩壊することになるから。
そして実際にそういう冤罪事件がいくつか起きている。今朝のブログでボクは死刑制度に反対だと言った。その理由はこういうこと。
人間のやることは完璧じゃない。物的証拠と自供、そして状況証拠に基づいて起訴するかどうかを検察は判断する。だけどどこかにミスがあれば、無実の人間を死刑にしてしまう可能性がゼロじゃない。
無実かどうかは、本人は確実にわかっている。もし無実の人が死刑を執行されたとして、刑場におもむく人物の気持ちを想像して欲しい。その恐怖と怒り、そして絶望は尋常なものじゃない。こんなことが起きる可能性がゼロでない限り、死刑制度は速やかに廃止するべきだと思う。それが世界的な傾向でもある。
それでも死刑が必要だと思う人。凶悪犯は『目には目を』で命を持って償うべしだと思う人。そんな人は、一度この小説を読んで欲しい。
『潔白』青木俊 著という小説。もう2017年も終わろうとするこの時期に、今年もっとも印象に残る小説になった。昨晩の読了後の衝撃が今でも残っている。
今年の7月に出版された小説なので、ネタバレはしないのでご安心を。ぜひ手に取って、驚くべきラストを体験して欲しい。
これはフィクションだけれど、あり得るであろう事態を想定して書かれている。ある殺人事件が起きて、一人の男性が死刑判決を受ける。そして死刑が執行されてしまう。決め手は被害者に残されていたDNAだった。
だけど死刑囚の娘は父親が無罪だと確信している。なぜなら犯行の時間帯に父と一緒に過ごしていたから。だけど肉親の証言は証拠にならない。ましてや幼い子供だったから無視されてしまう。成人したその娘は、亡くなった父の無念を晴らすために再審請求を画策する。
問題となったのはDNA鑑定。この小説はこの部分が論点になる。犯罪小説としても面白いけれど、それ以上に刑事裁判の裏側を知ることができてかなり興味深い。
最大の問題は死刑が執行されたこと。もし死刑囚が無罪だったとしたら、検察と司法ぐるみで殺人を犯したことになる。だから検察は必死になって娘の再審請求を棄却しようとする。そのやり方はとんでもなくえげつないもの。虫酸が走る、とはこのことだろうと思った。
だけどフィクションだから、現実世界のように検察の思うままで終わらない。死刑囚の娘と弁護士は、とてつもない『爆弾』を用意していた。その『爆弾』によって検察庁と司法界がひっくり返ることになる。そして真犯人が明かされると、読者は心底驚く。ボクはまったく予想できなかった。
よくこんな素晴らしい小説を書いてくださったなぁ、と著者に対して心から拍手を送りたい気持ちになった。この小説を読んでも死刑制度に賛成だと言うのなら、その人とボクは生涯にわたって理解し合えないだろうと思う。それほど衝撃的な作品になっている。大勢の人に読んで欲しい小説だと思った。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。