平安時代に週刊文春があったら
いやいや、コインチェックすごいね。ハッカーに奪われた仮想通貨の補償は無理だと思っていたけれど、さらっと500億円を出すとのこと。
まぁ、それだけ仮想通貨業界が利益を出しているということだね。500億円くらいだったら、仕方ないから出しておこうか、という雰囲気だもんね。
具体的な方法や日程は決まっていないので、まだ少し微妙感は残っている。そして日本円で返還を受ける人も、そのことによって仮想通貨の利確で課税されるのか、それとも賠償金として非課税になるのか? 政府の判断も気になるところ。
どちらにしてもコインチェックは結果として、顧客の信用を守り切った形になった。金融庁から行政処分を受けるらしいので、問題は再発防止策だろうなぁ。全額弁済のニュースと同時に、今朝から仮想通貨の相場が全面的に上昇していて笑ってしまった。
当たり前のことだけれど、メディアというものは時代にマッチしたものになる。こんな話題、20年前なら想像もつかないことだった。だったら、もっと古い日本ならどうだろう?
そんなことを考えた小説を読んだ。
『STORY OF UJI 小説源氏物語』林真理子 著という本。
紫式部が書いた源氏物語を現代語で小説にされている、林真理子さんの作品。なんとなく図書館で目について、借りてきた。基本的に源氏物語に魅力を感じていなかったので、あまり期待せずに読み始めた。
すぐに気がついたのは、光源氏がすでに死んでいること。何?、これって後日談なの? 無知なボクは、そう思ってしまった。
ところがこの物語は、源氏物語のラストをしめくくる『宇治十帖』を、現代語で小説化したものだった。主人公は光源氏の息子で薫という青年。そしてほぼ同じ世代の男性で、光源氏の孫にあたる匂宮という人物がメインキャスト。
これが意外にも、読んでみるとめちゃめちゃ面白い。光源氏の死後の物語なのが、なじみのないボクにとって入りやすかったのかもしれない。薫という実直な人物と、匂宮というプレイボーイの関係に引き込まれて、最後まで一気に読んでしまった。
薫は光源氏の息子として、父と同じく美貌の持ち主だった。もちろん天皇の姻戚だけれど、皇位継承権はない。一方、匂宮の母は光源氏の娘で、父は今上天皇という家柄。次の皇太子候補と目されている。だから子供のころから一緒に育っているけれど、薫と匂宮は叔父と甥の関係になる。
この二人が、浮舟という女性を取り合う物語。簡単に言えばそうなんだけれど、思ったよりも複雑な人間関係が登場してくる。さらに薫と匂宮の心情風景も、かなり込み入っている。だから小説として、かなり面白い作品になっている。
源氏物語って、こんな魅力的な物語だったんだね。恥ずかしいけれど、ここまで深く知らなかった。
ただ慣れるのに時間がかかったのは、奔放な男女関係。いちおう夫と妻という関係は成立しているし、不義という概念もある。だけど実態はメチャメチャ。
この浮舟も、薫と匂宮を同時に受け入れたものだから、板挟みになって自害しようとする。最終的には生き延びて出家するんだけれど。歴史的な事実としてこの時代の男女関係を理解しつつも、慣れるのに時間がかかってしまった。
この小説を読みながら思ったことがある。もし平安時代に週刊文春があったら、まったく見向きもされないだろうなぁ、ということ。あっという間に、廃刊になってしまうはず。
だって皇太子候補が複数の女性と関係を持っても、誰もが普通のことだと感じている。それが理由で彼が職を失ったり、引退することなんてありえない。報道する価値なんて、ほぼないということ。
強いて言えば、家柄の合わない女性と関係を持ったとき、悪い噂を立てられるくらい。皇太子候補として注意するのは、その程度だろう。あとは好きなように過ごしていればいい。女性のほうも、おおらかなものだわ。
林真理子さんの文章力ゆえなのかもしれないけれど、源氏物語に興味が出てきた。林さんは当然ながら、光源氏が主人公となっている源氏物語も小説化されている。この世界に興味が出てたきたので、機会があったら読んでみようと思っている。文学作品と言われるゆえんが、少しだけわかったような気がする。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。