目をそむけてはいけない事実
相変わらず寒いけれど、とりあえずこの寒波は今日でひと段落らしい。そういえば歩いていても、2日前に比べたらマシだった。帰りの上り坂では、久しぶりに暑いと思ったからね。だけど、この真冬に暑いと感じるなんてどうよ!
そんな急な坂道を登らないと、家に戻れないという事実がすごい。まぁ、神戸在住の人なら、苦笑しながらもわかってもらえると思う。そんな真冬の神戸にも、春が近づいてきた。
いよいよ梅が咲いた。まだつぼみが多いので、これから次々に開いていくんだろう。そのうち木蓮の花も咲き出すはず。そうなると桜のつぼみもふくらむから、春がやってきたという雰囲気になる。これからは、いい季節になるね。
そんな季節の移り変わりを、おだやかな気持ちで見つめられるのは幸せなこと。生きることに必死なら、目が向くことはない。そんなことを感じる本を読んだ。
『ワイルド・スワン』上巻 ユン・チアン著という本。
彼女の著作として初めて読んだのは、『マオ 誰も知らなかった毛沢東』という作品。20世紀前半から後半にかけての中国の実態が、ありのままに書かれた作品。膨大な調査とインタビューに基づいて書かれたドキュメントだった。著者はイギリス在住の中国人だけれど、当然ながらこの本は中国で発禁処分となっている。
そして同じく、この『ワイルド・スワン』も、中国で出版されていない。だけど世界中をかけめぐったベストセラーで、1000万部以上も売れている。100万部じゃなくて、1000万部だよ〜〜!
この本もノンフィクション。同じく20世紀前半から後半の出来事が描かれている。この本に登場するのは、著者の祖母、母、そして著者本人。3人の女性を通じて見た、中国のありのままの姿が詳細に書かれている。
まだ上巻しか読んでいないけれど、文庫本で600ページ近くもある大作。1909年に祖母が生まれたときから始まり、1952年生まれの著者が中学生のころまでの出来事が書かれている。とにかくすごい。世界的なベストセラーになったのがよくわかった。
祖母が生まれたころは、まだ清王朝が存在していた時代。やがて清の皇帝は力を失い、軍閥が群雄割拠する時代となる。ちょうど日本軍が中国に侵攻したころ。著者の母が生まれたのは、蒋介石の国民党が中国を支配していた時代。そして著者が生まれたのは、毛沢東が率いる共産党が中国全土を掌握したころ。
これだけでも3人の女性の体験が、どれだけ壮絶なものかを想像できるはず。時代の波に翻弄された中国の人たちの苦悩が、彼女たちの生き様からリアルに見えてくる。ボクは読みながら、何度も言葉を失ってしまった。
著者が書いた毛沢東の伝記を読んでいるので、中国共産党の恐ろしさは理解している。だけどそれ以前の時代でも、同様の苦しみがあったことを知って愕然とした。当時の旧日本軍も、かなりひどい。著者の祖母と母は満州の生まれだから、日本軍の侵攻の影響をモロに受けている。
だけど日本の敗戦後に満州を支配したソ連、そしてあとを受けた蒋介石の国民党も、負けず劣らずひどい。そして大トリで、共産党が登場してくる。日本人として目をそむけたくなるけれど、決してそうしてはいけない事実だと思った。だから、しっかりと読み込んだ。
この上巻の後半では、著者の父が登場する。度重なる国民党の悪事にうんざりして、著者の母は共産党に参加して革命に身を捧げる。そこで出会ったのが著者の父で、若いけれども、共産党ではかなりの実力者だった。
それなりの苦労はあったけれど、著者が恵まれていたことは自分でふり返っている。もし両親が国民党の人間だったら台湾に逃げるか、中国本土で殺されるしかなかった。一般の農民や商人だったとしても、毛沢東の悪政で飢え死にしていたかもしれない。だって3000万人の人が餓死しているんだから。
著者の父を知ることで、中国共産党の幹部の生活がかいま見れて興味深かった。そして幹部ゆえの、恐怖も常に存在する。いつ密告されるかもしれない、という恐怖のなかで父も母も過ごしていた。
とにくすごい作品だと思う。下巻を読むのを楽しみにしている。著者は共産党社会で洗脳されたので、中学生時代は毛沢東を信奉していた。実態を知らされず、神話のようなことばかり聞かされていたから。
下巻ではそんな彼女が、本格的に共産党へ関わってくる。そしてやってくるのが、あの悪名高き『文化大革命』。著者のユン・チアンの目から見た、文化大革命はどのようなものだったんだろう? 下巻は手元にあるので、ページを開くのが楽しみ。だけど別の本を挟んで、上巻を整理する時間をおいてから下巻を読もうと思っている。
今や経済大国、そしてIT大国となりつつある中国。そんな中国の背景を知りたい人には、絶対的にオススメの本。中国の歴史を知ることで、ボクたち日本人の立ち位置も見えてくるように思う。
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