レクターは、レスターではない
フィギュアスケート男子フリーの興奮が、まだビンビンに残っている。滑走時間を考慮して、午前中に仕事を済ませ、午後一番に短い映画を観た。
そして用意万端でテレビの前にすわった。ちょっとバタバタしたけれど、それだけの価値があったよ。マジで感動した。
66年ぶりに男子フィギュアシングルで連覇した羽生選手がすごいのは、改めて言うまでもない。同じくらい感動したのは宇野選手のメンタルの強さ。いきなり転倒したのに、本人は笑けていたらしい。大した度胸だよね。
そしてショートプログラムでミスしたネイサン・チェンのフリー演技もすごかったらしい。残念ながらテレビをつけたときは彼の演技が終わっていた。フリーの演技だけでいえば、彼がトップだったんだね。これまた凄まじい精神力の強さだと思う。
このクラスのトップアスリートになると、才能だけでなく想像を絶するような努力をしているはず。だからこそメンタルの強さを維持できるんだと思う。ライバルから突き抜けるためのパワーは、ここまでやってようやくもたらされるものだろう。興奮しつつも、自分自身の甘さを痛感している。
さて、そんなスキマ時間に観た映画だけれど、期待していたわりに残念な結果だった。
『DEMON デーモン』(原題:Blackway)という2015年のアメリカ映画。
この映画を観ようと思ったのは、豪華な出演陣。レイ・リオッタという悪役をやらせたら右に出る者がいない俳優と、『ジェイソンボーン』シリーズで知られている女優のジュリア・スタイルズ。
そして主役としてアンソニー・ホプキンスが出演している。それも役名がレスターだよ! そう『羊たちの沈黙』シリーズのレクター博士を彷彿とさせる名前。さらにタイトルが『DEMON デーモン』と来れば、なおさら期待してしまう。
スタートは結構良かった。ジュリアが演じるリリアンは、ストーカー男につきまとわれている。レイが演じるブラックウェイという男で、舞台となっている田舎町の裏社会を牛耳っている悪党。リリアンが保安官に相談しても、すぐに街を去るように言われる。
そんなブラックウェイに立ち向かったのがアンソニー演じるレスター。ブラックウェイの麻薬が原因で自殺した娘の復讐が目的。リリアンの様子を見て、自分の娘と重ね合わせたという設定になっている。
たしかにブラックウェイはとんでもない悪党なんだけれど、どうも中途半端。レイ・リオッタの魅力がちっとも出ていない。『グッド・フェローズ』のときのようなアクの強さが見えない。これは脚本と演出の失敗だと思う。
さらにあっさりとやられ過ぎ。もっと主人公たちをいたぶって欲しかった。この映画を最後まで見られたのは、アンソニー・ホプキンスの演技ゆえだと思う。イマイチな脚本と演出でも、映画を最後まで観させてしまうのがすごいところ。
それからもうひとつ感情移入できなかったのは、ジュリアの起用かも。演技の上手い女優さんだけれど、決して美人じゃない。そして強そうなので、ストーカーに狙われているという切羽詰まったものを感じない。だからレスターが命をかけて助けようとする動機に、どうしても引っかかってしまう。
やはりレクターはレスターではない、ということだろう。もし『羊たちの沈黙』のレクター博士が手を貸したとしたら、ブラックウェイは生まれてきたことを後悔するほど、悲惨なことになるのは必定。時間をかけて地獄のような苦痛を与えられて、なぶり殺しにされただろう。どうせ殺されるとしても、レスターでよかったねwww
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