今だからこそ観るべき映画
昨日まで初夏のような陽気だったけれど、今日はかなり冷んやり。といっても、これが今の時期の普通の気温なんだろうね。
今年の神戸の桜は終わりかな。明日は天気が下り坂らしいので、一気に散ってしまうだろう。7日の土曜日は神戸市灘区の「桜まつり」だけど、マジでやるんかいな? 葉っぱしかないよ〜w
ボクは能の大鼓を習っていたことがある。そのときに師匠から教えてもらったけれど、『間抜け』という言葉は能から来たとのこと。現代では揶揄するときに使うものだけれど、元はタイミングが合わないことを指したもの。そういう意味でいえば、今年の「桜まつり」は『間抜け』になってしまったよね。
桜の花のような自然のものは、タイミングを逃すとそれで終わりになる。翌年まで待つしかない。だけどものによっては、その当時よりも年数が経過することでベストのタイミングになることもある。
昨日はそんなことを感じさせる映画を観た。
『フィラデルフィア』という1993年のアメリカ映画。写真のトム・ハンクスが、初めてアカデミー主演男優賞を受賞した作品として有名。彼は翌年にも『フォレスト・ガンプ』で受賞しているから、俳優として絶好調のときだろう。
何度も観ているけれど、久しぶりにじっくり見直した。それで感じたのは、この映画は、今だからこそ観るべき作品だと強く思った。
優秀な若手弁護士のベケットをトム・ハンクスが演じている。彼はゲイだったが、職場の役員には隠していた。ところがエイズを発症したことを知られて解雇される。エイズを理由にするわけにはいかないから、彼が用意し資料をわざと隠して能力がないという理由にした。
不当解雇で弁護士事務所を訴えるため、ベケットはライバルだった弁護士を雇う。それがデンゼル・ワシントン演じるミラー。だからといって、ミラーが最初から好意的だったわけじゃない。
この時代のエイズには大きな偏見があった。空気感染することを、本気で信じている人もいたような時代。それはミラーも同じで、相談にきたベケットが手に触れたものを気にするほどだった。さらにもっと大きな偏見がある。
それは同性愛者に対するもの。エイズ=同性愛者という図式が刷り込まれていた時代。そして同性愛者を毛嫌いする人は多かった。ミラーもそのひとりだったので、最初はベケットの依頼を断る。
その心理には恐ろしいものが隠されている。
それは、『自業自得』という考え方。エイズになったのは、同性愛者だから自業自得だ。だから職場を訴えるのは筋違いだというもの。
LGBTという言葉が一般化して来た今だからこそ、この映画を観るべきだと思う。人間がどのような偏見を持っていて、その悪意が罪もない人間を追い詰めて行くかがわかる。異性でなく同性を愛するだけで、病気になっても仕方ないという発想になる。それで死ぬのは自業自得だなんて……。
ボクがTwitterでフォローしている写真家の人がいる。その人は末期ガンで、すでに余命宣告を受けている。幼い子供がいるけれど、その子が小学校に行く姿を見ることはできないだろう。
ある日その人に、とんでもないリプライがあった。ヴィーガンの女性で、動物の肉を絶対に食べないという人。この女性は、彼がガンになったのは自業自得だと言った。その理由は、彼がハンターだったから。彼がガンになったのは、動物の命を奪ったからだという理屈。
ボクもハンターを嫌っている。絶対に友達になりたくない。話も聞きたくない。だからと言って、その人がガンになったのは自業自得だなんてひどすぎる……。この女性のリプライを見たとき、その短絡歴な偏見と発想に、恐ろしくて鳥肌が立った。
久しぶりにこの映画を観て、そのツイートの出来事を思い出した。人間の偏見と思い込みは、他人を傷つける凶器になる。自業自得だと言われた本人だけでなく、その家族の人の気持ちを考えたら、そんなことは言えないはず。
この映画でもベケットのパートナーだけでなく、彼の両親や兄弟が一緒になって偏見と戦っている。その姿に、心から感動する。今でも色褪せることのない、素晴らしい映画だと思う。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。