自閉症の世界
ちょっぴり冬に戻った神戸。ここのところは上着なしで外出できたけれど、今日は上着をはおってちょうどいいくらいだった。
とにかく風が強い。交差点で信号待ちをしていたら、風に押されて車道に飛び出そうになった。ボクの体重を持っていくほどだから、どれほど強い風なのか想像できると思う。
気候的な風が強いのは仕方ないけれど、人間関係において風あたりが強いのは不愉快。特に正確な理解を伴わない風評被害のようなものは、ひとりの人間を打ちのめしてしまうことがある。
そんな事態が何十年も続いている世界に関する本を読んだ。
『自閉症の世界』スティーブ・シルバーマン著という本。とても素晴らしい本なので、一読をお勧めする。だけど時間がかかるのを覚悟するほうがいい。
620ページほどあり、文字もぎっしり詰まっている。毎日2時間かけても、100ページくらいしか読み進むことができない。お花見に行ったりもしたので、結局本を手にしてから読了するまで、1週間もかかってしまった。だけどそれだけの価値がある内容だと思う。
自閉症というものを説明できる人は、ほとんどいないはず。なぜかと言えば、現代になっても明確に規定できるものではないから。現状は枝葉末節の症状だけが取り上げられていて、大きな誤解を生んでいる。日本の医学会でも、まだ古い事実を信じている人がほとんどらしい。
これは科学ジャーナリストである著者が、自閉症の歴史を徹底的にリサーチしてまとめたもの。その歴史は浅く、20世紀の前半になって自閉症という言葉が使われるようになった。自閉症とはどのような症状なのか?
無愛想、一つのことへの固執、身体的な不器用、ストレス時に大声を出す、論理性あるいは複雑な機械への興味、言葉遊びの才、個人的な習慣へのこだわり、普通の人にはない問題解決能力。
どうだろう? これだけでも簡単に理解できるものじゃないことがわかるはず。自閉症といっても、一人一人がちがうものを持っている。その症状に大きな差があり、ひとくくりにすることができない。
それゆえ、近年ではそうした多様性を表す言葉として『自閉症スペクトラム』という言葉が使われている。その特徴として、
(1)対人関係の形成、コミュニケーションが不得手。
(2)興味の範囲がいちじるしく限られていたり、こだわりが激しい。
この2点を特徴とした発達障害のことを指す。思い当たることはないだろうか? そう『オタク』という人がこの特徴に当てはまると思う。インターネットの発展によって、自閉症的な特徴を持つ人がIT業界の最先端で働くようになった。
だけどそこに至るまでの歴史は苦悩の連続だった。以前は自閉症の認定が難しく、子供の場合は小児性の統合失調症という診断を下されていて、精神病院や施設に収容されたという闇歴史がある。特にナチスが台頭していた時代には、淘汰対象として命を意図的に奪われていた。
戦後になってからも、その迷走は続く。つい最近まで続いていたし、現在だってまだ明確になっていないことは多い。だけど『レインマン』というダスティン・ホフマンとトム・クルーズが主演した映画によって、ようやく自閉症が認知されるようになってきた。
この本でも『レインマン』が映画化されるまでの経緯が、かなり詳しく書かれている。ボクはこんな裏話があるのを知らなかった。感動して涙がポロポロと本の上に落ちてしまったほど。この部分だけでも、大勢の人に読んで欲しいと思った。
こんな短いブログの場ではとても語れないけれど、自閉症の歴史と現状、そしてその本人と家族がどのようにして生きてきたかを知ることができる。自閉症の一種であるアスペルガー症候群を持つ人のなかには、世界を変えるような天才も大勢いる。
とにかく知らないことばかりだった。マスコミが流す、エセ情報の怖さもわかる本だと思う。著者の努力に、心から拍手を送りたいと思う。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。