マチネの終わりに
今日はいきなり本題に入る。なぜなら、あまり多くを語りたくないから。
書き出すと止まらなくなりそうなので、自分の気持ちを抑えるため。実はそれほど感動する小説を読んだ。
いや、感動という言葉は適切じゃないかもしれない。心をかきむしられ、のたうち回るような気分になった。この小説を読んでいると、自分ならどんな結末にするだろうと想像することさえできなくなる。それほど読者を苦しくさせる。こんなことあかんやろう、と泣きたくなる。
だけど全編を通じて美しい。そしてラストも、さらに美しく、そして切なかった。
『マチネの終わりに』平野啓一郎 著という本。
平野さんは芥川賞作家なので、ジャンルとすれば純文学作品なのかもしれない。だけどそんなことを考えることさえ、意味のないことだと感じた。面白いものは、ジャンルに関係なく面白い。
いわゆる恋愛小説で、大人の切ない恋をつづった物語になっている。以前から気になっていた作品だったので、ようやく読むことができてうれしかった。そして予想以上に素晴らしい内容だった。今もこの物語を思い出すと、胸をかきむしられるような感覚を覚える。
主人公は薪野聡史というギタリスト。18歳のときにクラシックギターの世界大会で優勝して、天才ギタリストしてデビューしている。38歳になってもその名は世界的に知られていて、最前線で活躍している。
もう一人の主人公は小峰洋子というフランスのジャーナリスト。父はフランスの有名な映画監督で、母は長崎出身の日本人。イラクのバクダッドで記者として仕事をしていてテロに遭う。もし取材相手にもうひとつ質問をしていたら、爆死していたという経験を持っていて、PTSDを抱えてしまう。
この二人は日本の食事会で出会い、互いに惹かれていく。だけど洋子にはアメリカ人のフィアンセがいた。恋に発展しそうになかったけれど、バクダットのテロを経験することで、二人は一緒に人生を生きようと決める。洋子はフィアンセとの婚約を解消して、結婚することを誓い合っていた。
ところが、ところが、小説の中盤でとんでもないことが起きる。これはネタバレしない。この物語の中核をなす出来事だから、これから読む人にとって知らないほうがいいからね。
ボクはこの場面を読んで、じっとしていられなかった。思わず自分のスマホを手にして、主人公の二人に事実を伝えたくなったほど。だけどどうしようもない。身もだえしながら読み進めるしかなかった。
とにかく二人はとてつもない妨害を受けて、互いのことを誤解したまま離れていく。だけどこれで物語の中盤だからね。このあとも二人の人生は続く。
単なる恋愛小説じゃない。音楽家としての苦悩や生き方について、主人公を通じて語られている。さらにイラクでの紛争や、洋子の母が長崎原爆の被爆者であるということで、戦争の理不尽さについても述べられている。
この小説は、超、超、超オススメ。切ないけれど、どこか清々しい。そして恋愛だけでなく、人生について、生きるということについて、真剣に考えさせてもらえる。
人間は過去を引きずって生きている。だけど未来を生きることで、過去を変えることだってできる。そんなことを感じさえてもらえる小説だった。
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