SOLA TODAY Vol.642
ここ数日のネットでは、1989年に起きた中国の天安門事件が取り上げられている。6月4日の出来事なので、この時期になると回顧する人が多いからだろう。来年で30年という節目を迎えることで、この事件が総括されているのかもしれない。
当時20代だったボクは、事件の記憶が鮮明に残っている。と言っても中国の政治状況を完全に理解しているわけじゃないし、当時の中国の人たちがどれほど命を落としたかを正確に知らない。実態は闇から闇に消えているから。戦車の前に立ちはだかった男性の姿が、象徴として記憶に刻まれているにすぎない。
そんな中国に失望した大勢の若い世代が、なんらかのツテを頼って日本へ移住している。当時の日本は世界第2位の経済大国だったし、中国とちがって自由も保障されている。ところが移住したその世代の人たちが、今になって後悔しているらしい。
このタイトルを見るだけで、ピンと来る。今や中国は日本を抜いて、世界第2位の経済大国になった。そのことだけに関していえば、完全に立場が逆転している。30年前にボクと同じ20代だった人にしたら、大きなチャンスを逃したと後悔するのは理解できる。自由はないけれど、大金持ちになれたかもしれないから。
日本は1990年代に入ってバブルが弾け、経済低迷が普通の状態になった。追い討ちをかけるように高齢化社会へ突入して行ったので、若い世代が有するエネルギーの絶対量が枯渇している。さらに既得権益者がのさばっているので、新しい技術が浸透するのに時間がかかる。
それに比べて中国は時代の波に乗ることができた。ITを主体とした最近技術は、共産党の一党支配によってまたたく間に布教された。既存のインフラが既得権益者に守られることがないので、新しいものを次々と導入することができる。だから日本では考えられないような金持ちが登場している。
しまった、と思う中国人移住者の気持ちがわかるような気がする。今の日本でそんなチャンスを見つけるのは、かなり困難だからね。でもどうだろう? 本当に失敗だと結論づけていいのだろうか?
ある本で読んだことがあるけれど、どれほどひどい独裁国家でも経済が順調なら国民は黙っているらしい。まずは衣食住を確保することを人間は求めるから、それは理解できる。だけど経済は生き物だから、いつか衰退するときが来る。日本の経済も成熟したからこそ、今の状況を迎えているだけのこと。
もしなんらかの事情で、中国の経済が失速したとしたら……。ボクは、独裁国家の歪みが一気に表出するような気がする。経済の影に隠れているけれど、現代でも中国は少数民族を圧政下に置いている。さらに国境を超えた先を、スキあらば侵攻する気配を見せているのは事実。
経済がうまくいかなくなったとき、国民から信頼を失いそうになった独裁国家がやることは決まっている。それは諸外国に対して『強さ』を示すこと。経済の代わりに、圧倒的な軍事力で国民の信頼を勝ち取ろうとする。そんな事態になったとき、日本に移住した人はどう思うだろう?
このような問題に正解はない。結局人間は、自分が今いる場所で全力を尽くすしかないと思う。いろいろ考えさせてもらえる記事だった。
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