悪魔がすぐそこにいる世界
いつも女性ヴォーカリストを話題にしているので、たまには男性ミュージシャンを紹介しよう。
ボクが今イチオシで注目しているのがBazziという20歳の青年。今年の4月に『COSMIC』というニューアルバムがリリースされたばかりの新人。
シングルの『Mine』が大ヒットして、現在もビルボードの上位にランクインしている。ボクはこの曲を始めて聴いたとき、メロディの美しさに心を揺さぶられた。ハイトーンで澄んだ彼の声に、ハートを射抜かれてしまった。これは売れるぞ、と思ったとおり大ヒットになっている。
そして同じアルバムに収められている『Beautiful』という曲もシングルカットされている。この曲もメロディーに泣かされるんだけれど、ミュージックビデオがさらに感動する。なんだろう? わけわからんけれど、不思議と涙が出て来る。本当に天使が舞い降りたような気持ちになる。天使が舞い降りた経験はないので、知らんけど。とにかく体験してみて欲しい。
さて天使のあとは、悪魔に登場願おう。悪魔という存在が身近に登場する小説を読んだ。
『不浄の血 アイザック・バシェヴィス・シンガー傑作選』アイザック・バシェヴィス・シンガー著という本。
シンガーは20世紀の初頭にポーランドで生まれたユダヤ人。1935年にヒトラー率いるナチスによるユダヤ人の迫害を受ける前に、アメリカへ移住して帰化している。アメリカへ渡ってからもポーランドのユダヤ人が使っていたイディッシュ語で小説を書き続け、それが英語に翻訳され、さらにいくつもの外国語になって世界の人が読んでいる。なんせ、ノーベル文学賞の受賞者だからね。
ボクはシンガーの作品が大好きで、これで3冊目。以前の2作は長編だったけれど、これは16の作品が収めれられた短編集。どの物語も素晴らしい作品で、読了するのが惜しくて、できる限りじっくりと読み進めた。
敬虔なユダヤ教の信者であるシンガーの作品は、ユダヤ教抜きにしては語れない。注釈を確認しつつ読み進めないと、意図がわからないことが多い。だけどその手間を惜しまなければ、独特な世界を探索することができる。
この作品は圧倒的に悲しい物語が多い。というより恐ろしい物語と言っていいだろう。まるで本当に存在するかのように、悪魔が登場する。そして人間をおとしいれようとする。具体的に悪魔が登場しなくても、人間が持つ魔性が赤裸々に描かれていたりする。だからマジで怖い。
この本のタイトルになっている『不浄の血』という作品なんて、最強に怖かった。オカルト的な恐ろしさではなく、人間が持っている悪魔性の恐怖だと思う。もちろん悪魔だけでなく、幽霊も当然のように登場する。
その背景にあるのは、ナチスによる迫害だと思う。さらにそれだけではなく、ユダヤ人のDNAに刻まれた迫害の歴史だろう。シンガーは、そこに悪魔を見ていたような気がする。
唯一ほっとした作品は、『ちびの靴屋』という作品。靴職人の老人の物語で、ナチスに迫害されたポーランドで苦汁を舐める。命からがらポーランドを脱出して向かったのは息子たちが移住したアメリカ。老人は裕福になっていた息子たちに助けられて、再び靴職人としての生きがいを見つけていく物語。
少し怖かったけれど、心に深く残った作品ばかりだった。またいつか、時をおいて読み返したいと思う。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。