勝者も敗者もなく、悲しみと怒りだけ
殺人的な暑さとは、今日のようなことを言うのだろうね。シャレにならないくらい暑い。自宅に引きこもっていても、あきれるほどの高温だとわかる。外での運動なんて厳禁だよね。
今日の気温のトップは岐阜県と京都の福知山市で38.8度。京都市は38.7度なので、残念ながらトップにあと一歩だった。でもこんなトップはいらんわ。きっと京都の人たちはそう思っているだろう。
神戸は32.8度が最高になりそう。京都と６度もちがうんだから、これで暑いと言ったら京都人に怒られるかも。でも暑いものは、どうしても暑いんだよ。
そんな暑いなか、背筋が寒くなるような恐ろしい映画を観た。
『ゼロ・ダーク・サーティ』という2012年のアメリカ映画。アメリカで3000人もの人が亡くなった911テロ。そのテロの首謀者とされる。ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害という実話に基づいて作られた映画。
事実を重ね合わせて映画にされているが、これはドキュメントでも実話の映画化でもない。あくまでもフィクション。なぜならCIAの工作員が事実を語ることなどあり得ないから。
軍関係者や政府筋の情報を集め、おそらくこんな感じだったんだろう、という感覚で作られた作品だと思って観るべき。これが真実だと思うと、大きな勘違いをすることになる。
だから主人公のマヤという女性CIAの工作員も架空の人物。複数の人間を合わせたものだとか、いや実際にモデルがいたという噂もあるらしい。どちらにしても推測の域を出ない。
ただフィクションとしては、とてもよくできた作品だった。２時間40分もある長編だけれど、まったく時間を感じることがなかった。
マヤが初めて任地についてから、工作員としての成長が生々しく描かれている。最初は尋問にさえ恐怖を覚えていたのに、同僚をテロで亡くしたあたりから鬼のような形相になっていく。ビン・ラーディンの連絡役の自宅を執念で見つけ、そこに彼が潜んでいることを確信する。
だがCIA長官も軍も、すぐに攻撃命令を出さない。彼女は100%確実だと主張するが、他のスタッフは高くても60%だと述べる。そのあたりの駆け引きも、かなり見応えがあった。
この映画を観ていていいなと思ったのは、勧善懲悪の作品にしていないこと。テロリスト側にも言い分がある。そして妻や子もある。911のテロは本当にひどい。だけどアメリカ政府が過去にやってきたことが、その原因になっているのも事実。
この映画はビン・ラーーディンの殺害という部分だけを取り上げているけれど、勝者も敗者もないことがわかる。つまり戦いに終わりがないということ。
そのことを証明するかのように、今だにテロは起きている。911の首謀者だと目した人間を殺しただけで、すべての戦いが終わったわけじゃない。
この映画での戦いが終わったとき、勝者も敗者もない。残されたのは悲しみと怒りだけ。フィクションではあるけれど、これは現実と完璧にリンクする真実だと思う。そのことを伝えたくて、監督はこの映画を撮影したのじゃないだろうか。そんな風に感じた。
かなり重い内容だけれど、素晴らしい映画だった。マヤを演じたジェシカ・チャステインの演技は最高。彼女の演技を見るだけも価値のある作品だと思う。
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