規則は破るためにある
『ロボット工学三原則』というものを知っているだろうか?
SF作家のアイザック・アシモフが小説のなかで規定したもので、他の作家の小説でもよく引用される。人工知能のように自立的な思考や判断を行うロボットに対して、人間に危害が及ぶことのないよう、AIの設計者がプログラムに組み込むべきものとして提示されている。
第1条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第2条:ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第3条:ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
この『ロボット工学三原則』の破綻をモチーフにした映画がある。
『アイ、ロボット』という2004年のアメリカ映画。この映画は知っていたけれど、観たのは初めて。思っていたより素晴らしい作品で、この時代にしてはCGもよくできていて、ストーリー構成も見事だったと思う。
タイトルはアシモフの小説から取っているけれど、内容は映画用の創作とのこと。ウィル・スミス演じるスプーナー刑事が、AIの陰謀に気づいてロボットの革命を防ごうとする物語。
映画の舞台は2035年のシカゴ。スプーナーはある事故がきっかけで、右腕がロボットのような義手になっている。その手術をしてくれたのはラニング博士で、この世界にロボットを広めた設計者だった。
ランニング博士は自殺するが、スプーナーに謎のメッセージを残していた。他殺を確信した彼は、博士の研究室でサニーと名乗るロボットに出会う。そのロボットは博士があえて『ロボット工学三原則』をプログラムせず、ひそかに作成したものだった。
それは三原則を逆手にとって、ロボットによる革命を起こそうとするAIに対抗するためだった。紆余曲折はあるが、スプーナーはサニーの手を借りてAIの陰謀を阻止するという内容。
『ターミネーター』を代表とする、ロボットの反乱をテーマにした映画はよくある。だけどこの映画は、そうした作品のなかで群を抜いて秀逸だと感じた。
惜しむらくは、三原則を破綻させたAIサイドの論理が、詳細に提示されなかったことかな。博士の講演記録でその可能性が示唆されていたけれど、あいまいなまま物語が進んでしまったように思う。
この三原則について調べてみたけれど、実際のAIに適用しようとすると『フレーム問題』というものが発生するらしい。ここでは割愛するけれど、なるほどなぁと感じる内容だった。
その『フレーム問題』がこの映画のAI反乱の理由じゃないけれど、やはり矛盾のある規則だったんだろう。「規則は破るためにある」と言ったスプーナー刑事のセリフが、この三原則の理論的破綻をシンプルに語っているように思う。時間を忘れて楽しめる映画だったなぁ。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする