正しい幻惑の使い方
ボクを幻惑させる店がある。その店に一歩入ると、魔法にかかったようになってしまう。
それは神戸六甲にある、プレフェレという洋菓子店。これまでのボクの人生において、今のところトップを堅持しているお店。とにかくパテシエのセンスが良くて、商品から放たれた魅惑的なオーラに幻惑させられる。
もうどれを選んでいいのかわからず、全商品を食べたくなってしまう。目移りしながら、妻と2人で選んだのがこれ。
タタンタルト、和栗のモンブラン、そしてガトーショコラの3点。どれも美味し過ぎて声が出ないほとで、特にタタンタルトは絶品だった。このタルトを1度でも食べてしまったら、永遠に魔法から覚めないような気がする。今日は最高のティータイムだった。
だけどこの店のようにすべての商品で客を魅了するのは、正しい幻惑の使い方じゃない。
本当の幻惑は、相手の目をそらし、真の目的を完遂するときに使う。わかりやすい例で言えば、マジックがそうだろう。目立つ動作に意識を向けさせることで、手品のタネを見破られらないようにする。
戦国武将の織田信長も、見事な幻惑の使い手だった。配下の武将を目的の場所に配置換えするさい、最初はわざと遠くて不便な場所を口にする。武将たちが不満を抱えた直後、本来の場所を妥協案にようにして示す。当然ながら、喜んで信長の命令にしたがうことになる。
昨日久しぶりに観た映画も、正しい幻惑の使い方をテーマにした作品だった。
『スティング』という1973年のアメリカ映画。子供のころから数えきれないほど観ているので、セリフを記憶しているくらい。
説明するまでもない有名な作品で、詐欺師たちが主人公になっている。ゆえに幻惑させるのはお手もの。この映画が何度観ても飽きないのは、構成されているストーリーが完璧だから。『人を騙す』という行為が、これほど鮮やかで爽快に描かれている作品はないだろう。
ロバート・レッドフォード演じるフッカーは、偶然にマフィアの資金をだまし取ったことで命を狙われる。マフィアのボスは容赦ない人間で、絶対に逃げることはできない。そこでポール・ニューマン演じるゴンドーフに助けを求める。
マフィアのボスであるロネガンをだます過程が面白くて仕方ない。そのうえフッカーを狙っている刑事まで罠にかける。この映画を初めて観た人なら必ず驚くラストシーンのトリックによって、ロネガンも刑事も完璧にだまされてしまう。
ロネガンは50万ドルを失ったのに、殺人現場にいることに動揺してその場を去ってしまう。フッカーを追っていた刑事も彼が死んだと思い込んだので、ロネガンを引き連れてその場を離れる。
本来の目的を遂行するため、派手な幻惑によって注意を引いたことが見事に成功する。人間は究極の選択を迫られたら、自分の身を守る方を選ぶからね。そうなればお金や復讐心も吹き飛んでしまう。
本当によくできた物語だと思う。この幻惑の使い方は、時代に関わらず効果的だろう。今書いている新作に、この手法を取り入れてみよう。登場人物を幻惑させつつ、読者をだませたら最高なんだけれどね。
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